序 白い居城
ニコルがいなくなって三日が経とうとしていた。ディルクは時間を見つけては今まで訪れたクルス森の至る場所を探していた。
しかし、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。
新しい人狼の犠牲者になってしまったのだ。
村人たちは声を表に出さなかったがひそかにそういい合い、半ばニコルの所在を諦めかけていた。
食事時はドーリスと共に過ごし、ドーリスの様子を確認していた。
やはりニコルは戻ってきていない。
ディルクの表情をみて一瞬だけ表情を曇らせるドーリスであったが、すぐに気丈にふるまっていた。
「ディルクーー!!」
村の中を歩いていると男の声が響いた。無精ひげを生やしたハンスであった。この数日寝る間も惜しんで研究に没頭していた結果だろう。
「どうしましたか」
「ついにわかったぞ。鍵の扱い方が。これでカタリーナ姫の城へ行けるぞ」
目をらんらんとさせ興奮した声で語った。そのときになりディルクはこの村にやってきた一番の目的を思い出した。
(そうだ。僕はカタリーナ姫の肉体の行方を探す為にここに来ていたんだった)
大事な目的を忘れて一人の少女の行方を必死に探した自分に気づいた。
今までこんなことはなかった。
被害者が出れば確かに捜索したり救助することもあった。しかし、人狼退治を第一に使命としていることを忘れることはなかった。
それなのに一人の少女の為に自警団の人たちに頭を下げ協力を得て自分も足を使い捜索している。
(僕は………どうして)
そのときようやく自分の気持ちを理解した。
はじめて自分の狩人になった経緯を話した。
狩人になりたいと願ってもそれを許そうとしなかった。
気づけば自分の中ではニコルは決して陰になってはならないまぶしい存在であった。
きっと好きなのだろう。
そのとき妙に頭の中がすっきりした気分であった。
「おお、どうした?」
急に黙り込んだディルクにハンスは首を傾げた。
「いえ、それで鍵の扱いとは」
「うむ」
ハンスは手に抱えていた袋の中から4つの宝珠を取り出した。
「この宝珠とと陣に刻まれた文字は合わせてひとつの単語になっていたのだよ。それを組み合わせる形で、それぞれの場所の陣に宝珠を組み込み、それに合わせた属性の魔力を注入すれば鍵は開かれるはずだ」
「本当ですか」
「ああ、そのためにメイジ術者が必要になってくる」
そういえばいつもディルクの道案内をしてくれているジルケがいない。
尋ねてみるとハンスは面目ないと苦笑いした。
「あいつ、連日徹夜でついにダウンしてしまって今は知恵熱で寝込んでしまっている」
「そうですか。では、彼女が回復するのを待ちましょう」
メイジ術を使えるジルケが必要不可欠になる。ジルケが回復するまでは引き続きニコルの行方捜索の続きをしよう。そう思っているとハンスは不敵に笑った。
「ふ、ふ、ふ………俺をあまくみないでもらいたい。魔力注入くらい俺もできるぞ」
大船に乗った気でいろとハンスは胸を叩いた。
しかし、彼は研究者であってメイジ術者ではなかったような。メイジ術が使用できたのはジルケとその母親だったと聞いたような。
「まぁ、ついてこい」
そういいハンスは陣のある場所へと向かった。スーリィ洞窟である。先日、ここの狼を退治したため他の場所と比べれば比較的安全であろう。
陣までたどり着き、ハンスは宝珠をひとつかざした。それと同時に紙札を宝珠に張り付け呪文をひとつ唱えた。するとそれは白く輝き、自然と陣の中に吸い込まれ消えてしまった。代わりに陣が輝きだしあたりを照らした。
「うん、うまくいったぞ」
満足げにハンスは笑った。
「その札は?」
「ああ、昔妻と共同研究した作品さ。この札に妻が自身の血の練りこまれた墨で各属性の符号を刻みこんでいる。これで簡単な呪文をひとつ唱えれば属性ごとの魔力を一時的に出すことができる」
なんと便利なアイテムだろうか。
「それがあればメイジ術者でなくてもメイジ術を使用できますね」
「いや、そこまではうまくできなかった。せいぜい魔力増幅にしか役に立たん」
しかし、陣の鍵を開くのに十分な魔力を出すことはできる。
早速二人は各所の陣へ周り同様のことをした。当然狼が出るたびにディルクは応戦しハンスを守っていった。
そして最後にカトラ丘へとたどり着いた。これで最後である。
ハンスが宝珠で鍵をあけた瞬間、地響きがした。
地震?
思わずディルクとハンスは地面にしゃがみこみ守りの姿勢にはいった。地響きは数分続き、ぴたりと中止された。
「大きな地震だったな。村は大丈夫だろうか」
ハンスがそう呟きながら村の方をみると驚いた表情を浮かべた。それはディルクも同様であった。
大きな城がみえた。白い壁で荘厳なつくりの城が堂々とそびえたっていた。
今までなかった場所に、村の裏の方に新たな丘が作られその上に城が建てらえていたのだ。
まるで王がずっとこの森中にいたかのように堂々と。
「あんなもの今までなかったはずだ」
ディルクはしばらく呆然とその見事なつくりの城を見つめた。
「まさか、あんな近くにあったのか。ぞっとするな………同時に気づけなかったとは悔しいことこの上ない」
ハンスは舌打ちした。そしてあの城が何なのかをはっきりと明言した。
「あれが、あれこそがカタリーナ姫の城、シュネー城だ」




