8.クッキーとお茶と報告書
さて、自分も宿に戻り報告書を作らなければ。
宿に戻ろうとすると後ろから声をかけらえた。
ニコルであった。
彼女は少しそわそわして両手に小さな紙袋を持っていた。
「おや、ニコルさん」
最近見かけなかった為、ディルクは心配していた。訪ねようか悩んでいたが、自分が行けばかえって事件のことを思い出し辛い想いをするのではと思った。
「あの、これ………」
ニコルは紙袋をディルクに手渡した。中から甘い匂いがしてディルクは思わず頬を緩ませる。
「良い匂い………クッキーですか?」
ニコルはこくりと頷いた。
「クッキーを作りすぎたので、おすそ分けです。後、疲れをとる効果のある薬茶も入ってます。お湯に注ぐだけでできあがりますのでよろしければ」
「ありがとう、ニコルさん」
宿の女将に夜食を作ってもらおうかと考えていたため、これはありがたかった。
「あの、さん付けはいらないわ」
突然の言葉にディルクはきょとんとした。変なことを唐突に言ってしまったとニコルは慌てて今のなしと言おうとした。
「それじゃ僕のこともさん付けはいりません」
笑って切り返すディルクにニコルは思わず俯いて顔を合わせないようにした。
「そ、それじゃ………いつもご苦労様」
そうニコルは口早に言ってその場を離れてしまった。顔が赤かったようにもみえる。
くすくす
残されて首を傾げるディルクは店から聞こえる女の声に振り向いた。
「ああ、ごめんなさい。あなたを笑ったわけじゃないの」
メリッサは優しく笑い、失礼であれば謝ると頭を下げた。
「ええと、あなたは」
「メリッサよ。あの子とは小さいころからの付き合いで姉妹のように育った仲よ。もちろんジルケとも仲良しよ」
「そうだったんですか」
「ニコル、まだまだ塞ぎこむかなと心配だったけど大丈夫みたいね」
メリッサの言葉にディルクはすぐに納得した。彼女を一目みて少し元気がでているようでディルクは安心した。
「ええ、よかったです」
「あなたのおかげね。ありがとう」
その言葉にディルクはどういう意味か理解できなかった。
「僕は何もしていませんが」
「そう?」
メリッサはそうは思っていないようである。
「あの子、そそっかしくて危なっかしいけど仲良くしてくれるとうれしいわ」
「ええ、もちろんです」
にこやかに笑うディルクにメリッサは思っている意味が違うんだけどと感じたが、まぁいいやと微笑み返した。
その夜、ディルクは夜遅くまで起き報告書を書き上げた。今まで手にもっていたメモを片手に村で起きたこと、例の鍵穴について、カタリーナ姫の伝承を研究する者のことをまとめていった。
滞在期間はそこまで長くはないが、それでも結構な量であった。
あくびをしながらディルクはクッキーと薬茶を糧に報告書を仕上げ、翌朝早速送った。




