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序 黒皮病

 朝の陽ざしが入り瞼を開けようと思ったが、瞼が重く開けられなかった。

 耳を済ませれば母が朝の支度をしている音が聞こえる。


 起きよう。


 そう思っても体が重く全身に石がのっかかっているのではと思うほど重かった。

 熱く苦しい。

 のどがからからだ。

 口もうまく動かせずに変な声がもれる程だった。―――



「うぅん、あれ………結構寝ちゃったな」

 窓の外をみるとお日様がずいぶん上にあがっている状態であった。

 夜遅くまで報告書を作成していたのでついつい朝が遅れてしまったようだ。

 身支度を済ませ部屋を飛び出す。普段フロントにいるはずの女将のマリがいなかった。

 フロントのテーブルには簡単な朝食を用意された状態で書置きがおかれていた。急用ができ朝の挨拶ができない旨が記されていた。

 何かあったのかなと思いながらディルクはパンを齧りながら宿屋を後にした。

 村の入り口にはすでにジルケが待機していた。

「遅いよ」

 ジルケは不満げに言った。

「ごめん………寝過ごしちゃってね」

 前日、徹夜で報告書を仕上げてしまいなかなか起きれなかったのだ。

「ま、いいや。早くカトラ丘にいっちゃおう」

 朝ごはんをせかしジルケはディルクを引っ張った。

「待って!」

 村の外を出ようとするとニコルが呼び止めた。

 すごい血相を変えてとんできたようである。

「どうしたんだい? ニコル」

「今日はカトラ丘へ向かわれると聞いて飛び出してきました」

 ニコルは息を必死に整え、ディルクに向き言った。


「私もカトラ丘へ行くわ」


 突然の申し出にディルクは首を傾げた。

「ニコル、カトラ丘は狼がいるんだ。危ないよ」

「わかってるわ。でも………あの薬草はこの辺ではカトラ丘の頂上に生えているの」

 薬草を採りにともに行きたいというのだ。

「薬草採りなら後日自警団を集めた時に行けばいいじゃない」

 ジルケは呆れたように言った。

「それじゃ遅いの! トーマスが………」


 トーマス?


 確か宿屋の女将の子供でラウラに格闘術を学んでいる少年であった。初対面で人狼と疑いをかけられて攻撃を受けてしまったのはついこの前のことだ。

 そのトーマスがどうしたのだろうか。


「テッドが黒皮病に罹ったの」

 それを聞きディルクもジルケもひどく驚いた表情をあげた。

「黒皮病て………」

 その名の通り皮膚が黒くなる病気である。血流が悪くなり、心臓や腎臓にも障害を与え呼吸機能にも悪影響を与える。最悪罹ったら数日のうちに苦しみながら死ぬ病である。

 現在では特効薬が開発されだいぶ死亡率は激減し、衛生状態を改善することによって罹患率も減っていった。

「特効薬は切れてしまって、新しいのを手に入れるには町へ行かなきゃいけない。でも、今からだと2日かかるし町の病院にストックがあるかもわからない」

 新しく作れればいいが、肝心の材料が不足しているのだ。その不足しているものがカトラ丘の頂上にある。できる限り早く手に入れたいのだ。

「事情はわかったよ。その薬草の特徴を教えて。ついでに採りにいくから」

 ディルクが安心させるように言うが、ニコルは自分も行くといって聞かない。

「あれは見分けが難しいの。私が直接探した方が早いわ」

「でも」


「私が彼女を守るわ」


 青髪の女性が宣言した。

「ラウラさん」

 自警団の格闘家ラウラである。彼女は頭をさげてディルクに頼み込んだ。

「お願い。事態は一刻を争います。彼女の薬草を見分ける力がどうしても必要不可欠なの」

 ニコルの同行を許してほしいと頼み込んだのだ。そういえばトーマスに格闘術を教えているのは彼女だった。彼女も自分の教え子の急変にいてもたってもいられず飛び出してきたのだろう。

「私がニコルを守るから、あなたたちは調査に専念してくれてもいいわ」

「わかったよ。一緒に行こう」

 ディルクは改めてニコルに向き直った。

「ごめん、ディルク。あなたの調査も大事だとわかっているけど」

「安心して。僕も君を守るから」

 調査ももちろん大事である。

 だが、お世話になっている村の為協力を惜しむつもりはなかった。

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