7.クオン森
陣の報告をするとトーマスは満足して研究資料のひとつに付け加えていた。
トーマスの部屋をよく見渡せば、魔法道具の試作品がたくさんあった。護符もありディルクの興味を引いた。
護符の研究は組織でも行われている。
人狼退治していれば人狼の恨みを当然買う。彼らから呪いを受けることもあった。傷を負うと適切な処置をしているのにも関わらず治癒せずにどんどん腐っていき切断したという狩人もいるのだ。これから身を守る為に呪いよけの護符を配布されることが多かった。
自分のみてきたものとは少し形式が異なるな。
ディルクは護符の文字の羅列をみて解読を試みようとした。しかし、一行の文字だけでも複雑な式が組まれており何の意図のものかさっぱりであった。
「ああ、それはカタリーナ姫の護符………を俺が再現したものだ」
「カタリーナ姫の」
「とはいえどれも失敗作だがな」
だが、作ることによってカタリーナ姫のことを理解することに繋がり無駄ではないとトーマスは言い切った。
「一体何の為のものだったのですか?」
「治癒術だ」
この護符による命令式で人の怪我………皮膚や免疫力、細胞の再生能力に働きかけ怪我を治すものだったと思われる。他にも免疫力を維持させながら熱を下げる術式もあったという。それは聖職者の治癒術と通じるものがった。
「治癒系が多いですね」
「ああ、カタリーナ姫は薬草学と医学の天才であったと俺はにらんでいる。人狼でなければ高名な医者になっていたかもしれない」
カタリーナ姫はどんな女性だったのだろうか。
そう疑問を抱いたディルクはトーマスに質問を続けようとした。
しかし、トーマスは研究に熱中してぶつぶつとつぶやいていた。本を大量に開き、今日見つけた陣の解読の為の式の解体を試みていた。
邪魔しないようにそっとディルクは家を出た。
「ごめんなー、親父は一度始まると娘の私の話も聞かないから」
ジルケは父のことで謝った。
「いや、いいんだ。しかし、ずいぶんな研究ぶりだね。お父さんも術を使えるのかな」
「んー、少しだけね。だけど私や死んだ母さん程じゃない。私のメイジ術は母譲りだけど、アレンジの提案は父からの助言が多かった」
そのアレンジというのは術式の省力化によってすぐにメイジ術を行うことができるためのものだった。確かにジルケのメイジ術は発動が早かった。
「そっか、また来るよ………えーと、次は」
「クオン森、次はカトラ丘だ。まっかせろ。私がちゃんと案内してやるから」
ジルケはどんと胸をたたいて任せろ豪語した。
「ありがとう。助かるよ」
ディルクが笑うとジルケは照れた。
クオン森は大きな森の中で育っている木々の種類が違う為、別名称で呼ばれ区別されていた。
名前の由来はこの森で迷子になった子どもの名前から。母親が必死に子供の名前クオンを呼び続きそれが村にまで響いてきたことからそう命名されているという。
広い森で似たような風景がずっと続いている為迷いそうである。しかし、ジルケのおかげで何とか迷わず陣の元までたどり着くことができた。
狼が陣を守っている場所に簡単にたどり着けた。今回は狼は当然と言わんばかりに襲い掛かってきたが。
ジルケの後方支援の下狼を退治してディルクは3つ目の陣をメモに書き写した。
「はい、これをトーマスさんに渡して欲しい」
ジルケはメモを受け取り今日は家に来ないの?と尋ねてきた。
「うん、訪ねたいのはやまやまなんだけどそろそろ本部への報告書も作成しないといけないからね」
自分が派遣されている期間がある程度伸びる際はそこでの報告を定期的に作り本部に届ける必要があった。派遣したことによる成果の確認と狩人の安否の確認の意味がある。
「そっか、じゃあ明日はカトラ丘だからな」
そういいジルケは村にたどり着くと家に走って帰った。
あれだけ森の中歩いているのに元気だなとディルクは関心してしまった。




