3.トマト畑
ジルケの家はトマト畑のすぐ近くであった。どうやら普段のジルケは仲間と一緒にトマト畑の世話をしているとのことであった。
「おーい、ラウラ!!」
トマト畑の中で作業をする小柄な女性にジルケは手を振る。元気に振るジルケとは対照的にラウラと呼ばれた女性は控えめな挨拶をし近づいてきた。
「彼女はラウラ。ゲルトさんのトマト農業を手伝っている子よ。あ、ゲルトさんもラウラも自警団のメンバーでとっても頼りになるのよ」
目の前までやってきた大人しい女性は少し気恥ずかしそうに頭を下げて挨拶した。青い髪は肩までかかり、さっぱりとした印象を持たせる。
握手をしてみると彼女の手の感触に驚いた。村娘とは思えない程のしっかりとした手であった。彼女の自警団の一員と説明を受けディルクは納得した。
「ゲルトさんは元騎士で前言っていたケヴィンを更生させた人。で、ラウラは私の家の隣さんで、元々は余所の村出身だったんだけど親兄弟を失くして母親の友人だった私の母に引き取られる形でこの村にやってきたのよ。バル村出身だから、格闘術を得意にしているの。可愛いからって手出したりからかったら痛い目を見るわよ」
きしきしとジルケは笑うがそれに対してラウラは静かに言った。
「むやみに格闘を他人に使ったりしないわ」
ラウラは静かにであるがはっきりと言った。それにジルケはごめんと笑っていた。
ラウラはちらりとディルクの方をみやり軽く会釈した。
「私はラウラ。よろしく」
少しぼんやりとした瞳をしているが、間近でみると全身から隙のなさを窺えた。
「ディルクです。よろしくね、ラウラさん」
「トーマスが蹴りをしたというのを聞きました。大丈夫ですか?」
それを聞きディルクは今朝のことを思い出した。
「大丈夫ですよ。大したことありません」
「すみませんでした」
突然謝られてディルクは首を傾げた。
「あの子に格闘を教えたのは私です。村を守りたい、母親を守りたいというあの子の願いを無碍にできずせめて護身になればと教えていました。ですが、関係のない………村を救いに来て下さった狩人を人狼と間違え攻撃をしかけるなんて。私からも厳しく言い、しばらくあの子に格闘を教えるのはやめておこうと思います」
そういえばマリがトーマスにラウラには黙ってあげるから罰として掃除をやれと言っていた気がする。
それを言うとラウラが説明した。今日、いつものようにラウラに手習いを受けにやってきたトーマスはついつい自分から喋ってしまい、ラウラの叱りを受けたという。
とても正直な子である。
「いえ、そこまでしなくても」
「私の技はむやみに人を傷つけるものではありません。しばらくあの子がそれを理解できるまではやめておきます」
どうやらラウラの意志は固いようである。
これはディルクがあれこれ言う問題ではないだろう。
確かに間違えたとはいえ、人に怪我を負わせようとした。
もし、ディルク以外の銀髪の者が村へやってくれば同様のことをしたかもしれない。
彼は格闘技をしっかりと学んでいるようであるし、いずれは大事故につながるかもしれない。ここはラウラの方針に委ねるのが一番良いとディルクは考えた。
「ですが、彼が心から反省し、大丈夫だと思ったら格闘術をまた教えてあげてください」
そういうとラウラはこくりと頷いた。
天真爛漫なジルケや豪快な女傑のマーヤとは全く違うタイプの女性であり、ディルクはつい関心してしまった。
「おや、ゲルトさんも」
ジルケは満面な笑みで畑から頭を出した男に笑顔で手を振った。
そういえば前回クレア救出の際酒場から出るところですれ違ったことがあった。飲食会でも姿を見かけたが、彼はずっと女性に囲まれていて声をかける機会はなかなかなかった。
「どうも僕は」
「銀十字から派遣された狩人だろう」
近づいてくる男にディルクは自己紹介をしようとしたが、もうすれに彼は知っているようだった。
男は手拭で汗を拭き終えため息をついた。
「私はゲルト………しがないトマト農家だ」
農業を営んでいるというが、とても農夫の雰囲気にはみえなかった。身に着けているものは確かに農夫のそれであったのだが。
立ち居振る舞いは毅然としており、隙がない。目の前にいるとつい緊張してしまいそうになる。
「またまた、都の騎士様が何をいいますやら」
ジルケはくすくすと笑って言った。
「昔の話だ」
「この人はね、数年前まで都で騎士をしていたの。村一番の出世頭だったんだけど、ケヴィン坊やの後始末で怪我をしてしまって引退をしてしまったの。でも、さすが元騎士様………未だに老若問わず女性にもてるのよ」
ジルケはにやにやと笑いラウラとゲルトを見つめていた。
「いや、村の外の話が興味深いだけだろう」
そうゲルトはいい相手にしていなかった。
「引退の身で、人狼に対しては君と比べると無知だ。それでも槍には覚えがあり多少は戦える。戦力が少しでも欲しいときは遠慮なくいってほしい」
一応彼も自警団に所属しているという。
彼のような味方を得られるとは心強いことこの上ない。
そういうとゲルトは少しだけ照れたように笑った。




