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「やあ」
「……おせーよ」
「おいおいそんな物言いでいいのかい?」
霧が晴れた山で足跡でヤツだと分かったが、こちらが腕一本失ったことに対し、そいつは左腕を出血させて現れた。涼しげに。
「いやはや、まさか『魔王』と『勇者』を同時に相手にするとは思ってなかったよ。ほんと、相手が本調子じゃなくてよかった。こっちも本調子ではないからね」
「『魔王』? それなら俺もあったが」
「いやいや、あれは『魔王』なんかじゃないさ」
言っている意味がわからない。俺は確かにあの日、髪色は若干違ったがあのガキが、俺らの魔王が「娘だ」と言っていた。
「お前、『金髪』意外に会ったか?」
「いや、ない」
『金髪』は見た事がない。長い髪と風貌の違った『青髪』の勇者は知ってるが。
「じゃあ知らないのさ。至極簡単な話だ」
奴はクスクスと笑い、
「君が見たのは『依代』だ。『マオ』は確かに一般よりはかけ離れた力を持つが、『銀髪』と『金髪』には『勇者』、『魔王』の絶大的力を有す。それに対して、《『金髪』が具現化している時》あるいは《表に出たあと》のマオはただ《無属性》、ようはただの強化しかできないのさ」
「まて、でもあいつ剣に魔力を込めた時、色は具現化だったぞ!」
「……ほう、そりゃいいニュースだ」
奴はさらにニヤつく。
「実は『マオ』が就任した少し前、予兆があったらしい。本来闇ですらない魔法すら黒ずんだとか」
「……近々暴走するってことか?」
「さあ、どうだか」
「おい!?」
奴はヘラヘラ笑った。痛みをさも快感のように、傷口を撫でる。
「……誤算は二つ。そもそも魔王がこの地に降り立ったことだな」
「…もう一つは?」
奴の言動は『はしゃぐ子供』のようだ。
「『平和 湧磨』と、今行動を共にしていること、かな?」
「……なぜ、あの男なんだ?」
俺にはわからない。あの男は両極に立ち、両極に認められた、中身はただの人間。しかしこの男はどうもユウマに執着している様だ。
「あいつになんの価値がある。今見て確かに実力が跳ね上がっているが、ただ後ろに立つ『魔術師』だろ––––」
「黙れ」
無詠唱の斬撃が俺のもう片方の腕をはねた。
「ぐ……あ…あアァァァァァア!!」
「黙れ」
明らかに冷徹な目に変わる。またも無詠唱で両腕の痛みを消す。
「……なに、すんだよ!」
「黙れ」
今度は口を塞がれる、魔法で。
「彼をそこらの『魔術師』でくくるな。彼は私が認めているんだ。彼の職は『魔導師』だと、認識を改めたまえ」
そして再び無詠唱で、今度は両腕を生やし、口も動くようになった。
「…君はまだまだ私の補佐を頼むね」
そう言い残し、霧のように霧散した。




