霧中 3
「よっ、だいぶ派手にやられたんだな」
スーツをボロボロにした彼女に声をかける。凛とした立ち振る舞いが、先程の怪我を完治させているのをアピールしているようだ。
「は、そのままくたばればよかったのにな」
「ふん、貴様には言われたくない」
後方のギンキもかなり派手にやられていたが、負ける状態ではなかったし、今は彼女同様完治している。
「全く、お前ら連携しろよ……やれば楽勝だったろ?」
「「いやだね(ですね)」」
見事にハモった二人は互いを見つめ、そっぽ向く。
「……で、更識はどうした?」
「帰しましたよ、話終わってすぐに。この地の人間には荷が重いでしょうから」
「追加情報は?」
「……首謀者はこちら側、それもこの地に『転生』したと言っています」
「マジか。俺着いた時にはもういなかったんだよなー」
「それと、『リーフ・ベイン』が暗躍していると––––」
と顔を上げて言葉を失った。あのギンキさえ後退りするほどに、その『気』は重く、黒く、暗く……。
「……アイツもこっちにいるってことか?」
「はい……確実に」
「ああ、俺も見た……」
彼の表情を見ることもできず再び頭を下げる。おそらくかなり恐ろしいことだろう。汗が流れ、息がし難くい。
それほどまでに『リーフ』はユウマの逆鱗に触れすぎた唯一の人間なのだから。
「……わかった。悪い取り乱して」
その『気』を発した彼は我に返り、ようやく再び上げた目に映すのは、いつも通りの彼の澄まし顔だった。
「よし、ひとまず首謀者の確保を第一の目標にしよう。お前ら顔見てんだから、写真とか身辺調査は任せていいのか?」
「はい、そこは問題ありません」
「ああ、俺もだ。だがいいのか? ユウカ達には知らせなくて」
すると、去るように歩き出した彼が無表情で振り返る。
「……アイツらは関わらせるな。約束守れないなら頼らない」
「……分かってるって。だから頼ってくれ」
「おう、ちょー頼りにしてるぜ!」
とニヤッと笑った彼は河川を後にした。
彼が頼らなくなる、それが恐ろしいことを知っている。彼は何でも一人でこなすことができる、基本やらないだけで。
一度だけ、彼は誰にも頼らないで一人で世界を敵にした男だ。そしてその結果……二人の少女が涙を流した。
「……もう、マオ様を泣かせないためにも」
「……ああ、そこは確実に利害が一致するよ」
もう見えない彼の背中を見つめ、今再び現れた黒幕に、怒りを堪えきれずにいた。




