始まりの朝 1
『――うま、ユウマ、起きてユウマ!』
桜舞い、少し冷たい風に乗ってやってきた花びらに鼻をムズかせると、今度は息ぴったりに重なる声が俺の二度寝を妨害した。負けずに布団に、なんて事がラノベ主人公のお決まり行動だろうが、あいにく『朝に鳴く鶏』のように爽やかに目が覚める目覚ましボイスには勝てず、俺は半開きの目で俺の顔を両方からのぞき込む『二人の少女』に、分かっている問いを投げる。
「――なあ、今何時だ?」
「朝の5時前!」
『元気娘』なんて言葉が彼女のためではないかと最近思う少女は、校則通りの制服の肩に少し掛かる程度の赤みがかった黒髪を窓からの風にふわっとはためかせ、紅のぱっちりした瞳は爛々としていた。
「…………いつも早いから、もっと早く起きた。元々早いし」
今度は真逆に静かで若干知的感漂う、背中まで掛かる銀髪ロングストレートも風にはためき、いつものように半目で空色の瞳が何か期待した目でのぞき込んでいる。
さて、ここからが最大のことだが。
「……なあ、何で風が流れ込んでいるんだ? 俺昨日戸締まりしっかりして寝たぞ」
勘違いはないはずだ。昨日、いや今日の一時までギャルゲーやっていたから念に念を重ねて防音対策として窓とドアの戸締まりは念入りにしてヘッドホンでプレイしていた。そこから開けてはいない。
「…………わたし、窓から入ったまま」
世間一般でいう美少女の口から衝撃的発言がとぶ。『わざと少しはだけさせた制服の着方をしている』彼女の背後を俺は恐る恐る見ると、窓枠は外れていた。
「あ、あたしもドアちょっと外して入った」
さらに衝撃、もう一人ふざけた格好の少女を押しのけ、ゆっくりと半開きの戸を開くと、軽く変形した玄関のドアが無造作に置かれていた。なるほど、だからやけに風通しが良いのかそういうことか。
「…………」
一応言おう。この二人に常識は、少なくとも『この世界』では無い。
頭を抱えた俺は二人の頭を『強く』鷲摑みにし、ズルズルと玄関へ引きずった。
「この不法侵入者があーっ!」
俺は盛大に世間一般美少女二人を外に放り出した。
……ひっぐ、ぐすん――と涙目になりながら両者は各々自分が入ってきたところを修理している。
まだ説明途中だったが、赤みがかった黒髪少女は『煤野 麻央』。これでも元は、世界を崩壊させるとこまでした『魔王』だ。元々の本名は魔王の姓で『マオ・ススノ・ブラッド』と嘘のような姓で、この世界に来たときにその『ブラッド』を抜いて検索かけて気に入ったのがこれだったって訳。
そして銀髪で普段は物静かな少女は『傘木 優華』。こちらは母の姓が『レインウッド』らしく、『レイン』→『雨』→『傘』と『ウッド』→『木』の連想から来ていたりする。彼女は、どの時代にも、魔王を倒すだけのための血を宿した『勇者』だ。元はいろいろあったものの、今はこうして一緒に行動することが多い。特に『俺絡み』なら――
「終わったー」
「…………もう、疲れた」
「嘘つけ。おまえらそんな事でへばる訳ねーだろ」
「………私、麻央ほど体力、ない」
「うそだー! 前にユウカがギンキ背負い投げてるのみ――」
口は災いの元、麻央は優華にグーパンでみぞおちにモロに食らい、沈むように倒れたのを哀れに見つめる。
そう言いながら俺は二人が『魔法』で修復している間、日課の朝食作りを済ませ、二人が終わった頃に、机に突っ伏す二人の間に並べていく。瞬間料理の匂いに釣られて一気に起き上がった二人は目を輝かせた。
「「いただきます!!」」
「……別にたいしたものじゃないだろ。ただの卵焼きとおひたし、後は味噌汁だな」
「ううん、『ユウマの』だからおいしんだよ! おかわりある?」
「…………麻央、まだご飯来てない。それにユウマ、私たちの口に合うように何度も変えてくれて今の卵焼きがある、今のお味噌汁がある。ありがとう」
「うん、ありがと!」
二人の満面の笑みに、俺はズキンと心に突き刺さる。それは過去の罪で、今も背負っているつもりのもの。少なくとも彼女たちに非難されても感謝されるようなことをしたつもりは無く、罪悪感が俺の心をまた一つ埋めていく。
「……ユウマ、何も悪くないんだよ?」
我に返ると二人は、今度は悲しそうな目で俺の心を理解しているかのように見つめる。
「……おいおい、なんて辛気くさい顔しているんだよ。俺が何かしたか? なんか困ったこと思っているように見えるか? それよりさっさと食わねーと置いていくぞ」
二人が焦って飯を平らげているのを見つめながら、少し自分の感情をセーブしきれなかったことに反省をした。
「……そろそろ、吹っ切らないとな」
いそいそと食器をしまう二人はあっさりと元通りの顔をしていて、俺も繰り返さないように『あのこと』を考えることをやめた。
「ユウマはやくー!」
「………おいていく、よ?」
「おい待て、お前らその鍵触れて『複製』すんなよ」
「「なぜばれたし!」」
「分かったお前ら、まず日本常識教えるからそこ正座しろ!」
……ま、今はそれどころじゃないしな。




