仲直り
大きな木は見えるのに、走っても走っても近づいたように思えなかった。
日が落ちて、木陰で隠れて休息を取る。
太陽が昇ったのを見ると、僕はまた太陽に背を向けて駈け出した。
その太陽すら傾きかけた頃、僕はようやく木の根元までたどり着いた。
上を見上げれば、緑ばかり。あんなに広がっていた空を覆うほどの緑。
きっと、あのてっぺんで手を伸ばせば空に触れられるのではないかと思うほど、大きかった。
息を切らして根元に座り込む。僕はちっぽけだ。
彼女が気軽に散歩に行く道を、僕はどれほど時間をかけたのだろう。
彼女と一緒に居たいと嘆くわりに、彼女と同じスピードで進むことも出来やしない。
「えっ」
小さな声が聞こえた。
地面ばかりを見ていた僕は、顔を上げる。
黄色い翅が見えた。ずっと見たかった、僕が望み焦がれていた黄色い翅。
「まって!」
逃げようとする彼女に大声で呼び止める。
彼女は止まってくれた。
背を向けたままだったけど、僕が話しかける機会を与えてくれた。
そんな些細なことなのに、ちょっと心が暖かくなる。
「この間は、ごめんなさい」
見えていないだろうけど、頭を下げる。
「みんなにからかわれて、思わず言っただけなんだ。確かに、僕と君じゃ進む速さも、食べ物も、全然違うけど……それでも、それでも僕は一緒に居たいんだ!」
ふわり、と甘い香りがした。
目の前は黄色一色で、体全体が暖かい。
「ありがとう、私こそ、ごめんなさい」
彼女の綺麗な声が耳元から聞こえる。どうして?
「君が謝ることはないよ」
小さな笑い声までも近くから聞こえる。
まるで、彼女に抱きしめてもらっているみたいだ。
抱きしめてもらっている……?
そのことにようやく気づいて、僕の心臓が猛スピードで鼓動を速める。
「あ、……えっと、あ……」
言葉にならなかった。どうして良いのかも分からなくて。
真っ赤になった僕に気づいた彼女は楽しそうに笑った。
「これから、ここで待ち合わせしましょう。会える時だけでも。」
もう何を言って良いのか分からないくらい頭がまわらない僕は、何度も何度も頷いた。
「それじゃあ、またね。」
翅をひらひらと振った彼女は、空へ飛んでいってしまった。
見えなくなるまで見送った僕は、腰を抜かして地面に座り込む。
何度も深呼吸をして、ようやく落ち着かせた。
良かった。仲直りできて。
「よかった……」
周りの植物たちが、僕を応援してくれている気がした。




