揶揄と後悔
最近見かけない。あの黄色い姿を見かけることもない。
僕に翅がついていれば。
もう少し高く飛べれば、もっと遠くまで見渡せたのに。
どんなに草木の上に登っても、僕は彼女の飛んでいる空中までは辿りつけない。
「はあ……」
小石に腰掛けてため息をついた。
「あ、黄色いチョウだ。」
近くの花がそう呟いた。
ハッと顔をあげたけれど、青い空が広がっている。後は伸びっぱなしの草が視界に入っただけだ。
「最近見かけないね、なにしてるのかな?」
クスクスの花の笑い声がする。それでようやく、騙されていることに気がついた。
僕の気持ちが周りに見透かされてる気がして嫌な気分になった。
「知らないよ!」
知らないよ、何も聞いていない。もしかしたら、事故にでもあったのかも、と思うだけで心が張り裂けそうになるのに。住んでいる場所もわからないし、僕が向かったところで出会えるとは思えない。
ただ、この間見かけた場所でひたすら待ち続けるだけだ。
「まあ、あの子可愛いもんね。みんな惹かれるのも無理ないね。」
「えっ?」
僕だけじゃなかった。
彼女の魅力に惹かれているのは、僕だけじゃなかったのだ。
よく考えれば当たり前のことだった。
あんなに綺麗な色をしていて、狙わない人が居るわけない。
「冗談だけどね」
楽しそうに笑う花たちが恨めしかった。
ここ最近何も無くて退屈しているのかもしれないが、僕をからかって楽しまないで欲しい。
ただ僕は、彼女と仲良くなりたいだけなのだから。
「でも、あんなに綺麗なのだから、あながち間違いじゃないかもしれない」
自分で言って、自分で首を絞めた感じがする。花たちは誰も否定してくれなくて、それが真実味を増した。思わずため息がついて出る。
「ここに来ないのには何か理由でもあるんだよ!」
誰かが言った。
僕を励まそうとしているのかもしれないけれど、あまり嬉しくなかった。
「卵産んでたりして……」
聞きたくない言葉だった。
周りの花が流石にもうからかうのを止めるように言っているけれど、その言葉が反響する。
ズキン、と心臓にトゲが刺さったような痛みがはしった。
嫌だ。僕が決めることじゃないのに、それはあってほしくない。
「そしたら、もう戻ってこないね。」
誰かが言った。もしかしたら、僕の醜い心が言っているのかもしれない。
せめて飛べたら。
彼女と一緒に空を舞うことができたら。
見目が違っても、死ぬまで一緒にいられたかもしれないのに。
「ま、戻ってくるでしょー。あんたの恋心はここ全体に広まってるらしいから」
ニヤニヤと笑われ、とっさに吠えた。
「黙れよ! そんなことないし! あの子とは住む世界が違う!」
「そう、だったの。」
ずっと聞きたかった声がした。
時が止まった気がした。
「そう思ってたんだね。私は、仲良くなれると思ってたんだけどな……」
いつものふんわりとした笑顔が、歪んだ。
悲しそうで泣きそうなのに、顔は笑ってて。
とんでもないことをしてしまった。
「違う、今のは……」
指摘されたのが恥ずかしかったから!
僕が最後の言葉を言う前に、彼女は飛び立ってしまった。
バツの悪そうな顔をする花たちをにらみ、またため息をついた。
「僕に翅があれば……」
「僕も飛べれば……」
「そもそも、あんなこと言わなければ……」
「仲直りできるように、向こうの花たちに伝えておこうか?」
「いいよ、大丈夫。次会ったら謝るよ」
そうは言ったものの、彼女は来なかった。
暇を見つけては翅をりんりんと鳴らしていたのだが、それすらもやる気にならなくてひたすら空を眺めている。
そろそろ他の生き物に捕食されそうだが、彼女に嫌われたのだったら、死んだって構わなかった。
「会いたければ、会いに行けばいいだろう」
「……そうだね。」
僕は覚悟を決めた。
「彼女は、どこにいるの?」
「太陽に背を向けてひたすら真っすぐ、あの大きな木の近くらしいよ。」
「ありがとう。」
僕は花たちにお礼を言って駈け出した。




