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祐としても、人を殺そうとするような嫌な連中は痛い目にあっていた方がいいとは思っている。だが、彼にとってさすがに死刑は残酷すぎる。


腹黒いギルドマスターと対等に話し合う度胸がある諒なら、もしかするとなんとかなる可能性もあると考えていたようだ。


諒にやる気は、全くといっていいくらいないが。


どうせ、ちょっと罰を受けた程度では、盗賊は反省しないだろう。今まで捕まった盗賊は全員死刑なわけだし、諒たちを襲った盗賊だけ罰を軽くするのは、平等でもない。


祐の考えこそこの世界では異常で、盗賊が絞首刑になっているのを見て歓声をあげるのが普通だ。死んだ盗賊を見てかわいそうだと泣く子供すら、存在しない。


そういう時代、そういう世界なのである。


諒の思考もかなり異世界寄りのため、実際の経験で、諒のせいで捕らえられた盗人が死刑になっても、特に良心の呵責は感じなかった。良心のあり方が地球とは違うからだ。


良心の呵責を感じない自分自身に対して、多少思うことはあるが。


この世界で残酷なのは、ともすれば祐の方かもしれなかった。


盗賊に殺された人間の怨みを、家族の恨みを晴らしてやらないなんて、酷い――とまあ、多分こんな感じだろう。


「今、この世界の考え方を完全に理解させるつもりはありません。ただ、死刑が確実だということは言えます」


諒は、下唇を噛みしめる祐に、冷然とした事実を言いながら微笑した。常識は、簡単には変えることができないのだと。


「……分かり、ました…」


納得はしていないが、なんとなく分かったことはあるのだろう。泣きそうな声音で、了承が返ってきた。


「そう…ですよね。盗賊を見逃すことで、殺される人もいるかもしれない」


小さく呟いて、祐はキリッと表情を入れ替え、噛みしめていた口元を引き結んだ。


「もう、大丈夫です。変なこと言ってすみませんでした」


案外強く気持ちを切り替える祐に、諒は柔和に笑んでみせた。


「いえ。変なことではありませんよ。今まで持っていた意識を変えるのは、難しいものです」


諒にしては、実感を込めた台詞のつもりだ。


諒だって、ことの起こりの異世界トリップしたばかりの幼少期は、木の根なんて食べたくなかったのである。今までの認識を変え(自棄ともいう)、かじるには結構な時間と追い込みが必要だった。


…祐の話とは全然関係ないが、とにかく実感だけはこもっていた。実感だけは。


祐の説得が終わったため、諒は空気になっていた盗聴男を顧みる。放っておいたとはいえ、こっそり逃げ出そうとしてそろっと足を動かした瞬間、背中に魔法で氷を詰めたので、反省しているだろう。


見ると、案の定男は背中を服の上から掻きむしった挙句脱衣し、上半身裸でガタガタ震えていた。


正直諒は、精神的なダメージを与えるために、男の裸はむさ苦しいと鼻で笑ってやろうかと考えたが、彼のあまりに寒そうな様子を見て溜飲を下げた。


諒が精神ダメージ作戦を実行していたなら、今頃盗聴男の心には深い(ひび)が入っていたはずだ。さすが諒、えげつない(やることが違う)


「さ、寒いっす、ざぶいっずうぅぅーっ」


「どうしたんですか!? え、え、大丈夫なんですか!?」


祐があたふたと着る物を探す。しかし、諒は制した。


「彼は大丈夫ですよ。ここ(異世界)の人は体が強いですから」


などと、しれっと血も涙もない言葉を吐く。逃げようとした奴が悪いのだ。いくら何でもアレな台詞に、祐が手を泳がせ、眉を下げて戸惑う。


「えっ、で、でも…」


「大丈夫です」


「…そうですか」


そこまで言うならそうなのだろうと、断言を真に受けて衣類捜索をやめ、感心する祐。便利な薬などが発達していない中世だけに、ありうると思ったようだ。


「へぇ…やっぱりすごいなぁ」


無邪気に頷く祐を眺め、諒はにこにこ笑い、男は涙目で冷たい背中をさすりながら絶叫した。


「あんた、鬼っすか!?」


「私がですか?そんな…」


言いがかりをつけられた被害者風に、諒は口調だけは困ったように、全く悪びれないで真っ白な微笑みを浮かべた。


純粋かつ綺麗に微笑する諒は、どう見ても男をからかう気である。諒の暇潰し精神に気付かず、盗聴男が歯をカチカチいわせて返した。


「…顔が、顔が笑ってるっすよ!? しかもこの展開だと、明らかに俺悪者じゃないすか!!」


ものの見事に、諒の罠にかかった盗聴男であった。諒は笑顔で指摘する。


「心苦しいんですが、客観的に…あなたは悪者ですよね?」


「しまった!言い訳できないっす…俺、盗賊だったっす!」


男は、赤い髪の頭を抱えて絶望を表現した。どうやら、なかなか笑える反応をする愉快な男だったようだ。


まあ、だからといって冒険者ギルドに引き渡すのをやめるわけではないが。


盗賊は盗賊だ。


如何に遊びやすい人種だろうと、情報を手に入れればポイである。大して肩入れするつもりはなかった。


盗賊と繋がって敵を増やしても面倒だ、と前々から諒は思っていた。どうしてもいるものがある場合は、少々下劣だが、自分で盗ればいいのだ。元の世界に戻る方法を見つけなければならないのだから、なるべく邪魔者は作るべきではない。


諒は適当に盗聴男で遊びつつ、さりげなく情報を引き出して、まだ残っていたアップルパイの欠片にフォークを刺した。



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