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「それにしても、この剣……見た目の割に随分軽いなぁ」
祐が、聖剣を抜き出して改めてとっくりと眺めた。
現在は、夕食も食べ終わったので泊まる宿「閑雲」に帰ってきたところだ。
祐が諒の部屋にやって来て、諒に聖剣の性能を聞いているのである。
諒は、聖剣について祐に説明する事項をまとめつつ、アドルフを利用して買わせたアップルパイを口にして、心の底から愛する恋人にでも出会ったように陶然と微笑む。
いつもはどちらかというと清廉な涼風を思わせる雰囲気の諒の類まれな表情を見て、祐が思わず口をぱくぱくさせながら諒を凝視した。
何故か祐は、冷静沈着で無愛想な基本仏頂面の人間が、ふとした瞬間に笑顔を見せたような、非常に多大な衝撃を受けていた。
勿論、祐は諒の普段の笑顔が半分以上作り物なことには気付いていない。ただ、並よりかなり鋭い勘が、祐の無意識に「あれは仮面だ」と囁いているのだ。はっきりそうと認識しているわけではなく、飽く迄無意識下のため、基本的に祐の諒に対する感想は「丁寧で穏やかでなんかいろいろすごい人」だが。
おかげでその後祐は、「なんで俺あんなにびっくりしたんだろう」と悩むことになった。
驚愕の理由が妙に気になって、なんでだなんでだ、と悶々とする祐を、諒はちらりと一瞥して発言する。
「どうしましたか?」
祐は難しい顔をしていたが、諒の発言に首を横に振る。
「…いやいや、なんでもないです。……それで、なんか特殊能力あるんですか、この剣。神様もこの剣持ってたら身元保証になるって言ってましたし」
軌道修正を図った祐の言葉を聞いた諒は、祐からそっと顔をそむけ、うっかり殺気を振り撒かないように、アップルパイを食べるのに使っていた木製のフォークをベッドに突き立てる。
へし折れそうになったフォークと穴が開きかけたシーツは、瞬時に魔法で直した。諒には手持ちの金はほとんどないし、備品を壊したと弁償させられるのは困るのだ。
それはともかく。
――あのご老人、どうしてくれましょう。
そんな思いが諒の頭を占拠する。神という言葉を聞いて条件反射で放出しかけた殺気はともかく…詳しい話はまだしも主な説明すら手を抜いているなど、もう殺るしかない。いや、殺ろう。完全犯罪でバレなければ大丈夫なはずだ。
自分の暇潰しで祐を異世界に転移させておいて、軽い説明しかしていないとなると、無責任すぎて燃やしたくなる。凍らせるのもいい。
諒は人間なので天界には入れないが、魔法、それも魔神レベルの魔法なら簡単に入れるだろう。
珍しく短絡的な思考で血も凍る微笑を浮かべ、諒は短縮した呪文を囁いた。
「魔神の火焔を第三位世界管理者に。今すぐ、燃やしてしまってください」
さすがに神にダメージを与えられる魔法は詠唱が必要だ。詠唱を終えた諒が目を閉じ、集中すると、天界の様子が諒の脳内に浮き上がる。千里眼的な魔法である。爺が本当に燃えたかどうか、確認しようと考えたのだ。
因みに、個人を特定できる、魔力の「香り」と言われる特徴は消してあるので、犯人は露見しないはずだ。
ギルドマスターやエセルの時もそれで見抜けた。
相当魔法に長けた者…具体的に言うなら世界でも十指に入るくらいでないと「香り」は認識不可能だが、世界の管理者にも匹敵する力を持つ諒は余裕であった。
諒が覗き見た天界では、女神(同僚)と談話中だった爺が突如として炎に体を包まれ、『なぬぅ!?』と悲鳴をあげていた。
女神がぶすぶすと煙を出す爺に呆れ返った視線を向ける。
『どうせまた人間にちょっかい出して恨まれたんでしょ。それ人間の魔力だし。
…でも、攻撃が届いたのは驚きね。「香り」も巧妙に消してる。相当な規格外を敵に回したのね。阿呆だわ。
…あら?神にまで魔法が届く、人間……?もしかして、諒かしら。諒ね!どこにいるのっ、諒!愛してるわっ!! うふふ、諒の魔力…ぐふふふ――』ブチッ。
何故バレた。
いや、それ以前に……変態がいた。あれは変態だった。
諒は無理やり千里眼の魔法を打ち切り、恍惚として美しい容貌を歪ませぐふぐふ笑う、会ったこともない女神を忘れようと努めた。それが一番賢明な気がしたのだ。
幸い女神を見たのは今が初めてだったため、すぐに頭から変態を抹消することができた。
爺がちゃんと燃えたことだけ記憶に残し、諒は怪訝そうな祐に向き直る。
「ああ、申し訳ありません。少しぼうっとしてしまいました。聖剣のことですね」
「いや、大丈夫です!大丈夫!」
謝られて慌てふためく祐ににっこり笑い、考えを切り替えて諒は簡潔に述べた。
まず、聖剣を作った世界の管理者が選んだ人間しかまともに使うことができない。
さらに、当然だが、管理者が作ったものなので切れ味がとんでもない。
そして、魔法を無効化することが可能だ。
また、所有者なら、剣のどこかに触れていると深い傷程度であればただちに治癒できる。
最後に、いつも最良の状態を保ち、神レベルの誰かが攻撃しない限り決して折れない。
「わあぁ…。すごい」
諒から聞いた素晴らしい性能に、祐が聖剣を感嘆を滲ませた瞳で見る。そのような剣が自分のものだという喜びもあるのか、大変嬉しげだ。
それに聖剣なだけあって、見栄えも最高峰だ。一点の曇りもない黄金色に輝く凝った作りの柄に、澄んだ蒼の宝石がはまっている。純白の鞘は柄と同じ模様が彫られていた。身の部分も見事な銀色で、白く光を放っているようにさえ見える。刃は異常なほど鋭利だった。
ここまでくると、芸術作品としても余裕で通るだろう。
諒はうっとりする祐に、一応忠告しておく。
「いかに性能が良くても、剣技まで使えるようになるわけではないですし、指定された所有者しか使えませんが盗むことはできますから、気をつけてくださいね?」
これほど見栄えがいいのだ、所有者の祐を殺してでも手に入れる価値がある。売れば、一生遊んで暮らせる額になるだろう。また、所有者しか使えないと知っていても、自分ならあるいは、と考える頭の悪い輩はどこにでもいるのだ。注意するに越したことはない。




