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祐は、目をギラギラさせた店員と明らかにやばい客に恐怖して半泣きになりながら、全力で抵抗する。


「怖いっ、怖いから放してっ!!」


「ふふふ…店に入ったからにはやってもらいますっ」


…とはいえ、店員のテリトリーである店内に入ってしまった時点でもう手遅れな気がしないでもないが。


「さあ、さあ!行ってください、男でしょ!」


「それを言うなら店員さんも男じゃないですか!…って、ちょ、やめっ」


「落ち着いてください」


ぐいぐいと客の方に祐を押しやる店員に、諒はにこやかに声をかけた。状況が分かっていないように見えるくらい一人だけ平和だが、混乱中の祐よりは理解できている。


とりあえず、闇雲に突っ込んでいっても無意味なことに気付く程度に、切羽詰まった店員を覚醒させないとどうしようもない。


そう考えての諒の言葉に、祐は救済を期待したように、店員は何者かと胡乱げに、後ろを振り返った。


諒は、閉じた扉にもたれて祐と店員に微笑みかける。元々諒がこの料理店に入ろうと決めたので、一応責任(?)は諒にあるため、祐を助けるのも吝かでない。


「さすがに、このまま祐さんが生け贄では可哀想なので…実力行使していいようでしたらお客さんは私が片付けますよ?」


危うく混沌の最中に放り込まれそうになっていた祐には、諒の微笑みが神の慈愛の象徴にしか見えなかった。


「諒さんに…諒さんに後光が見える…」


いたく感動した祐は、老人のように「ありがたやありがたや…」と諒を拝みはじめる。


苦笑気味な諒に、店員が祐を捕まえた状態で懐疑的な目を向けた。


「…大丈夫なんですか?」


祐を生け贄にしようとしていた割には、諒のことは気にしているようだ。


「俺の扱い…酷いかもしれない」


諒との差別を感じた祐が、ショックを受けてぽつりと呟く。


「…あなたは、なんかあっさりしてそうじゃないですか。恨みが続かないというか。でもあっちの人は……敵に回したら店が潰れる気がするんですよ。勘には自信があります」


落ち込んだ祐を見かねた店員が、こそこそと祐に耳打ちした。見事に当たっている。


店員の勘、恐るべし。


やはり聞こえていた諒はますます苦笑いし、…客席から飛んできた水入りのコップをキャッチして空中にこぼれていた水を火の魔法で蒸発させる。


どうやら、混沌の中の一人、盛大に暴れている男がコップを投げたらしい。


諒は動揺することなくコップを手近なテーブルに置いて、店員の返事を待った。


「魔力コントロールうまっ!…あー…そうですね。お客様を怪我させなければ」


店員は、ジュッと音がして消えた水があった場所を見て瞠目し、口走ったが、途中で平静を取り戻して答える。


一瞬の出来事だったので祐はその場面を見逃したようで、反応しない。もし祐がそれを知れば非常に嘆きそうである。


諒は祐が肩を落とす光景が普通に想像でき、心の中でくすりと笑う。会ったばかりにも関わらず、祐の言動が容易に推測可能なところが面白い。


それはいいとして、と思考を戻した諒は、暇潰し対象料理店の店員の同意を受けて少し考え、頷いた。


「了解しました」


そう言って、厄介者集団を推し量るように観察する。短い間では更正不可能そうな人間を品定めしているのである。


今のところ、鬱病爺と白目男、香辛料馬鹿の三人が、「逝っている」状態らしかった。


他は説得でなんとかならないこともないだろうと思われたので、諒はまず、どことは明言しないが駄目になっている男たちを店からどかすことにした。


予備動作なしで三人に光属性魔法をかけ、「申し訳ありません」とにっこり笑って謝罪しながらも、容赦なくさっくりと意識を刈り取る。


(諒にとっては)軽い電流を使って気絶させたので、痛みは数秒だっただろうが、謝っておく方がいい。死なないようにしたとはいえ、死体…いや体が焦げ臭いことになっているからだ。


特に気が済まない、というわけではなかった。ただ、そうした方が諒の気性に合うというだけの話だ。


…因みに諒は、昔から何故雷が光属性に入っているのかよく分からなかったのだが…現状に全く関係ないのであまり気にしないことにする。


諒は失神して床に転がった三人を魔法で浮遊させ、滑るように移動させて開いておいた扉から順番に外に出していった。


店の外の大通りを歩く人々は無反応だが、例によって諒が浮かんでいる物体を見えないよう設定しているからだ。


今度は身体能力で気配を消さず、魔法である。


道行く人にぶつからない程度に三人を上昇させて、諒は適当に男たちを運んだ。この料理店からは見えなくなるまで遠くだ。


「これで三人は終わりましたね。後は五人…でしょうか」


諒は小さく呟いて祐と店員を振り向き、あえて無視していた背後で起こっていた騒ぎを再認識する。


祐が、楽しんでいるのが一目瞭然なくらい嬉しそうだ。明らかな超常現象が興味を引くようである。


諒の魔法で三人が消えた場面を見れば、


「うわぁっ、消えた、ねぇ店員さん、消えましたよ!」


などと大喜びし、挙句、店員の服を引っ張り飛び上がる始末だ。


魔法がある生活が当たり前の店員は、祐のテンションに着いていけずに辟易気味だった。


「何なんですか一体…」


客のせいで疲れきった表情をさらに疲労させながら、祐を引き剥がそうとする。しかし、諒は非情だった。


「そのまま祐さんの相手をしてあげてください」


「えっ」


「私は残りのお客さんたちを説得しに行きますので」


店員に柔和な微笑を見せると、客席に向かう。


その場には、店員の溜め息が落ちていった。





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