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「諒」とアドルフの思い浮かべている「リョウ」は確かに一致している。一致しているのだが、言葉がまずかった。


諒はアドルフの偏見にまみれた発言に困って眉をひそめたものの、おそらく間違ってはいないので一応頷く。


「はい、そうですね」


肯定すると、アドルフは「へえー」と呟いて諒を上から下までまじまじと眺めた。そして笑顔で一言。


「随分と美形に育ったようだが、平凡な俺に喧嘩売ってるのか?」


意味が分からないことを口走るアドルフに、諒はできるだけ優しげに見えるように表情を作り、にっこりと微笑んだ。


「差し出がましいとは思いますが、薬師さんを訪ねてみてはいかがですか。日頃のストレスによく効くお薬を処方してくださるでしょう」


魔法があるこの世界では、治癒が使える光属性を規準に集められている、教会の神官が治癒を行う。つまり、神官が医者のような役割を担っているわけだ。


しかし病気は、光属性を持っているだけの一般人である神官の魔力量では治すことができない。何しろどんな病でも、病気を治すには一般人では到底無理なレベルの、大量の魔力が必要なのだ。


だから、ここで薬師が出てくる。薬師は薬草などを調合し、ある程度個人差はありすぐには効かないこともあるが、一定の確率で病気を治すことができる。


神官は患者が精神病でも話を聞いてアドバイスすることくらいしかできないのに対し、薬師なら心の病にも薬で対処可能だ。


それ故、諒は薬師を推奨したのだが、アドルフは何やら機嫌を悪くしたようだ。


「誰が頭がアレな人だ、誰が!」


と、鼻息を荒くしてとうに分かりきっていることを聞いてくる。


「この場で私と会話しているのはアドルフさんのみですので、あまり考えずとも自ずと答えは出せると思いますが」


諒はそれでも、遠回しに、丁寧にアドルフに伝えると、アドルフは勝ち誇った笑みを浮かべる。


「じゃあ、お前だな!」


…どうも言い負かした気になっているようだが、これはそもそも勝負ですらない。さらに、勝手にこの程度のことを勝負にしているなど、頭が幼児退行しているとしか思えない。


諒は胸懐でかなり辛辣にそう思ったが、嬉しそうなアドルフには言わないことにした。


諒に負けた意識がないどころか、勝負してすらいないことに考えが及ばないアドルフだったが、さすがに諒が穏やかに微笑したままなのには気付いた。


今度は大人の余裕に負けた気がしたらしく、また不機嫌になる。アドルフの方が諒よりも年齢は上のはずなのに、やはり残念な男だ。


因みに、『誰が頭がアレな人だ、誰が!』と憤った時、もし諒が『アドルフさんです』と即答したら、アドルフは『馬鹿って言った方が馬鹿だ!』と言い張るつもりだった。


先のことまで考えて二つも答えを用意してる俺頭いいとか思っていたアドルフだが、これは一部の人間が小学生の頃言ったことがあるかもしれない、懐かしの台詞だ。要するに、低レベルすぎる。


…諒は祐に「頼れる知り合い」を作るためにアドルフを紹介したが、「反面教師の知り合い」に改めた方が正しいだろう。


良い子の祐は真似してはいけないほど、レベルが低い。


諒がアドルフに絡まれないようにこっそり嘆息して振り返ると、ちょうど、ナタリーと祐が奥から出てきたところだった。


親馬鹿なアドルフが悲鳴をあげる。


「ナタリー!そいつを家に入れたのか!? 何もされてないだろうな!?」


「お父さん、お客様に失礼よ?この人はリョウさんの弟子のユウさん、らしいわ」


「あ、よろしくお願いします」


ナタリーに改めて紹介されて、祐がアドルフにひょこっと頭を下げる。諒がいない間に、諒の弟子ということになっていたらしい。


確かにその通りではあるのだが、生徒ならまだしも弟子と言われると自分が一気に老人になったような気がする諒だった。諒が感慨に耽っていると、自分の名前が聞こえてくる。


「リョウに弟子…だと?よくこんな鬼畜に師事する奴ができたな。蓼食う虫も好き好きということか?」


見れば、アドルフがにこにこする諒に背を向けて、衝撃だと言わんばかりの声音でぼそぼそ言っている。


幼少期の諒がアドルフに厳しかったのは自業自得であって、決して諒が鬼畜だからではないが、無反省なアドルフの中ではそうなのだ。


しかし…いくら後ろを向いたところで聞こえるものは聞こえる。


自分の言葉をさりげにスルーされたことに落ち込みかけた祐は、アドルフの失礼な台詞を聞いて、恐る恐る諒の方を窺っていた。


諒は祐の視線を感じながら、「祐さんといいアドルフさんといい、一人言は意外と聞こえるのを知らないんでしょうか」などと些かずれたことをのほほんと考え、苦笑した。


そして、未だに呟き続けるアドルフは放っておいて、辺りを見回す。


周りには、魔法雑貨店だけあって魔法具がたくさん陳列してある。


別に買う気は全くないが、先程もちらっと思った通り、やはり一般的な魔術師に擬態するには杖がいるだろう。この世界において、魔術師に杖は必須だ。自分で作れないだろうか。


諒のように極限状態で魔法を使うのではなく、普通に魔法を学ぶ祐も、少なくとも中盤くらいまではコントロールのための杖が必要だし、この店に置いてある杖を少し見て帰れば、さらに有意義にもなると思われる。


杖など持ったことがない諒は良質そうな杖を数秒眺め、形状を記憶してから、まだ何か考え込んでいるアドルフを放置して、祐に声をかけた。


「目的は果たしましたし、夕食を食べに行きましょうか」


十分魔法雑貨を見た祐が、嬉しげにこくこく頷く。そろそろ空腹になってきていたようだ。諒も、さすがに他人の家でアップルパイを食べようとは思わず、宿に持って帰って食べるつもりだ。


ナタリーにも立ち去る旨を告げ、諒は祐と連れ立って「彩」を出た。


…結局、最後までアドルフは二人が出ていったことに気付かなかった。



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