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諒と祐は、アドルフが戻ってくるまでの間、父親の暴走を謝罪したナタリーにお茶を出されていた。


さすがに喫茶店や酒場などではないので店内ではなく、店の奧だが。


どうやら雑貨店と家が一つになっているらしく、店の奧は工房、さらにその奥が家だった。


その家に案内された諒は今、テーブルを前にナタリーと他愛ない昔話に花を咲かせている。


「あ、『リョウ』さんだったんですね。そういえば、昔もお父さんの頬を引っ張ってましたよね。私はそれで思い出しました」


「十年くらい前のことですし、覚えていないと思いましたが。意外ですね」


にこにこと会話する二人に、ずずっとお茶を啜った祐が疑問を挟む。


「え、十年前って諒さん九歳ですよね。そんな小さい頃から戦闘ものが多いこのお店に出入りしてたんですか?危ないんじゃ」


言外に「さすがに九歳で戦闘は無理ですよね?」と含ませて祐が諒を見ると、ちゃんと祐の言いたいことを理解した諒は言い切った。


「魔獣を倒して生きていましたから。死体は結構高く売れますよ」


さくっと異常な子供時代を暴露すると、祐は奇声を発した。


「はいぃぃぃ!?」


カルチャーショックを受けているようだが、これは残念ながら異世界でも普通とはほど遠い。


その証拠に、異世界人のナタリーも絶句している。


いくら異世界でも、九歳はまだ遊んでいる時期である。実戦に出していいものではない。出すとしても、十三歳くらいからだ。


よって、魔獣を売る時はいつも「お父さんの狩ってきたのを売ってるのねー、お手伝い偉いわねー」みたいな目で見られていたのだが、特に訂正はしないでおいた。


諒が自分で狩っているのがバレた時、「九歳の子供にやらせてるなんて!この子の親はどうなってるのよ!」と騒動になるのが分かりきっていたからだ。


親がいない子供でも、九歳だと乞食や泥棒になっているのだ。つまり、まだ戦えないということ。貴族の武家の息子は訓練しているだろうが、さすがに実戦はやらせない。


アドルフや諒と同じ歳だったナタリーも、幼少期の諒を見て「親のお使いに来た子」だと認識していたのだ。


お使いにしては買った魔法具を身に付けて店を出ていったりしていたのも、大人の真似をして魔法具を身に付け、背のびしているように見えていたのだから、子供とは救いようがない。


アドルフなど、「冷静で鬼畜な割に可愛いところもあるじゃないか」と微笑ましく思っていたのだが、幼少期の諒は馬鹿アドルフに馬鹿にされたような気がして殺意を覚えながらも、都合がいいので仕方ないことと割り切っていたのだ。


諒の、サバイバル生活で培ったこの冷静さがなければ、アドルフの頬はとっくの昔にちぎれていただろう。「彩」も、ギルド本部のような惨憺たる状態になっていたと思われる。


諒がそんな恐ろしいことを考えていると、祐が自分に暗示をかけはじめた。


「これは当たり前…当たり前なんだ…」


それを、驚愕から立ち直ったナタリーが即行で否定する。


「当たり前じゃありません、気をお確かに」


「…えっ」


諒に師事してから、だんだん駄目な方向に染まりかけていた祐を、かろうじて常識人の道に引き戻したナタリーであった。


もしこのまま勘違いすると、祐の常識がとんでもないことになっていたのだが、ナタリーという一般人の存在によって食い止められたのだ。…祐は、諒に魔法の才能を視られた際に「属性とか魔力量って見えるんだ」と思ってしまっている例があるので、ちょっと手遅れ感はあるが。


だが、まだ大丈夫だ。まだやり直せる。この時点で諒から離れて他の人から教育されれば、間違った知識も矯正される。


祐は意外に頑固なので、あまり一度決めたことを覆すことはないだろうが、そう言いたくなる場面だった。


そのような会話をしていたとは知らず、アドルフが息急き切って帰ってくる。


帰ってきたはいいが、ナタリーが二人を家に入れたため、店内に諒と祐はいない。


ついでにナタリーもいないので――アドルフは妄想を膨らませた。


「まさか、あの男!可愛いナタリーを家に連れ込んで……!!」


「何をしているんですか?」


いち早くアドルフの帰ってくる気配を察知し、動いていた諒が、祐にかけられた阿呆な嫌疑を邪気のない笑顔で強制的に霧散させる。


アドルフにとって、諒はもはや鬼畜男にしか見えていないので、自動的にアップルパイを渡し、…はっと諒のことを知らない事実に気付いた。


「結局、誰だおま、いえあなた様は?」


別に諒はぞんざいな言葉遣い程度で怒るほど貴族じみた思考の人間ではないのだが、何やらアドルフは勘違いしているようだ。


しかも、諒の正体が分かっていなかったらしい。


頬をやられた際の反応は体に染み付いた条件反射だったようなので、諒は簡単に自己紹介をする。


「諒といいます。昔、お世話になりました」


本当は世話になったどころか迷惑をかけられっぱなしだったのだが、儀礼的にそう言っておく。


アドルフは腹芸などできない、言われたことをそのままとるタイプの人間なので、反射的に叫んだ。


「こんな鬼畜の世話をした覚えはない!…ん?鬼畜といえば…」


叫んだ後に、思い当たる事柄があったらしく、いろいろと考え出す。


「もしかして…お前、子供のくせして鬼畜の、あのリョウか!?」


しばらく悩んでから、ぽんと手を叩いて諒に尋ねてきた。





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