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現在、諒と祐は諒の幼少時代の知り合いの魔法雑貨店、「あや」の前にいた。


周りの家々に埋もれるようにこぢんまりとして、全体的に白い感じの外観は、見る者になんとなく安心感を与える。


「確か、このお店でしたね」


流麗な書体で看板に書いてある、小さな雑貨店の名前を見付けた諒は、にこやかに微笑み、祐に目的地到着を告げた。


「へぇ…ここが」


祐が興味深そうに、店を熱心にじっくりと眺める。魔法への関心が思いっきり表れていた。


諒はそんな祐に苦笑して、店の扉の向こうに意識を向けた。久しぶりだが、知り合いはどうなっただろうか。


諒の記憶が正しければこの「彩」は、店は小さいながらも店主である知り合いの腕はかなりよく、いい商品が揃っていたはずだ。品質が変わっていない保証はないものの、祐が品物を見ている間に知り合いの様子は確認できる。


だが、知り合いと言っても、もはや十年ほど前のこと。


その時諒は九歳だったため、長い時間で大分顔立ちも大人びているし、今の諒を幼少期の「リョウ」と重ねられるかどうかも分からない。 それ以前に、店主が変わっている可能性は、ある。


「彩」は個人店なので、少なくとも左遷ということはないだろうが。


ただ店自体は潰れることもなくあったので、少しは期待できるかもしれない。


別にどうしても会いたい、というほどでもなく、会えたら運がいい程度だし、そもそも、祐の魔法雑貨観察が本来の目的なのである。諒はあまり知り合いがいるかいないかなど、気にすることはなかった。


そのため、予定はないが時間が勿体ないこともあり、特に昔の思い出に浸りもしない。諒は入口の扉を躊躇せずにあっさり開いた。


普通は大まかな出来事について回想しはじめるところなのに、何とも合理的な諒である。


…いかにも「回想はじめますよ!」という空気が台無しな気がするのは、多分、おそらく、きっと、錯覚だろう…。


諒によって扉が開けられた音に、商品を点検していたらしい女性が顔を上げて、二人を認めると、さっとお辞儀をした。


「いらっしゃいませ!」


二人に声をかけてにこっと笑った表情が華やかなその女性は、二十歳に届くか届かないかくらいだろう。服装は高級とは言えないが、なかなか上質なベージュの服で、女性のセンスの良さが分かる。


真っ直ぐな薄茶色の髪に青の瞳をしていて、優しげにきらめく碧眼に惹かれる者は多いだろうと思われた。


諒はその女性に見惚れるでもなく、すいっと視線を魔法雑貨に逸しかけて、何かに気が付いたように女性に目を戻す。見覚えがあるような気がしたのだ。


なんとなく既視感を覚えた諒と女性が視線を交わしている間、祐は気も漫ろに「あ、こんにちは」などと挨拶してから、諒に「見てもいいですか?」と目で問いかける。


諒が軽く頷くと、祐は待ちに待った魔法雑貨に飛びついていった。


しばらくして、首を傾げて諒を見ていた女性ははっと我に返り、諒にまた頭を下げる。


「す、すみません。えっと、何かお探しのものはありますか」


「いえ」


諒は簡潔に否定し、不思議そうに目を瞬く女性に尋ねた。


「実は、店主のアドルフさんの知り合いなんですが。元気に過ごされていますか?」


幼少期、たまたま発見したこの雑貨店で、服やら魔法具やらを買っているうちに、よく話すようになった店主のアドルフが、諒の知り合いである。


アドルフには確か、九歳か十歳の娘がいて、いつも可愛い子だと自慢していた。しばしばアドルフの手伝いをしている親思いの少女だったので、実際会ったこともある。


名前は…ナタリー、だったような。


あれから十年経っていることを考えると、年齢的にも一致するし、もしかしたらこの女性がアドルフの娘のナタリーかもしれない。


「え…父の、ですか?」


女性が、驚いたように目を丸くして店主を父と呼んだことから、諒の推測が正しさが裏付けられた。


「はい」


諒が緩やかに微笑して首肯する。女性は、納得したらしく一人で首を縦に振っていた。


「父のお知り合いだったのですね。道理で見覚えがあると思いました…。父は元気です。奥にいるので、呼んできます」


諒としては店主の消息が分かったため、無理に会う気はなかったが、せっかく店まで来たわけだし会っていこうと、最終的には店の奥のアドルフに声をかける女性…いやナタリーを止めなかった。


「お父さん!」


ナタリーが奥にいるらしいアドルフに呼びかけると、可愛い娘に呼ばれたアドルフからすぐに返事がくる。


「なんだい、可愛いナタリー!」


…なんというか、微妙に沈黙せざるをえない典型的な親馬鹿の台詞であった。


いつものことなのか、ナタリーは一瞬困った表情をしたが、諦めたようにアドルフに用件を伝える。


「お父さんのお知り合いの方がいらしてるわ」





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