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「え………いいんですかっ!?」
祐の魔法の教師役をいとも簡単に承諾した諒に、祐がしばらくの呆然とした沈黙の後に驚きと喜びの色が綯い交ぜになった声をあげた。
自分でもあまりに図々しい話を持ちかけていると思っていたのか、祐は全く期待はしていなかったようだ。
栗色の目が大きく見開かれている。
諒は、予想通りの祐の反応に、悪戯が成功した子供の如く達成感をにこにこ明るい笑顔に滲ませて言い切る。
「いいですよ。全然大丈夫です。余裕で許容範囲内です」
そうはっきり宣言してから、諒は不意に案じるように首を傾げた。
「むしろ、祐さんなら魔力量も属性もたくさんありますから、引く手数多だと思いますよ?
ギルドからも勧誘が来るでしょうし。
ギルドなら、私のような一般人ではなく、ちゃんと魔法を教えられる偉い人がいるのではないでしょうか。
私などでいいですか?」
「勿論です!なんとなく!」
祐が元気よく自信たっぷりに頷いて胸を張った。
…完全に勘である。
何故そんなに根拠もなく自信があるのか諒はさっぱり理解できない。
しかし、祐は自分の勘に自信を持っているようなので、余計な口は挟まないことにした。
後で教師役の人選を間違えたと嘆いても諒は責任を取る気は微塵もないため、祐の自由だ。
一応忠告はしたので薄情というほどでもないが、なんとも適当な諒であった。諒は基本丁寧だが時々雑である。
諒がさくっと魔法の先生の仕事を引き受けたので、祐は断られるのを覚悟していたせいか、どこか「あれ?」と拍子抜けした雰囲気だったが、そのうち気を取り直して真っ直ぐ諒を見た。
真剣な表情をしてばっと頭を下げる。
「引き受けてくれてありがとうございますっ!これからよろしくお願いします!」
「こちらこそ」
諒は微笑んでそれに応えた。
「あ、それから」
祐が頭を上げてから、思い出したように諒に指摘する。
「諒さんは俺の先生になるんですから、敬語じゃなくてもいいですよ。年上ですよね?十九歳って言ってましたし」
「そう、ですか?」
「そうですよ」
困りましたね、と諒は考え込んだ。
諒は幼少期は今よりかなりドライだったので、お腹真っ黒な人のように人前と一人の時とは口調が全く違ったりしたのだが、現在はもうのんびり敬語口調に慣れてしまって、一人言だろうが人前だろうが笑顔で敬語がベースだ。もはや、敬語でないと違和感があるくらいである。
さすがに一人でいる時にまでずっと笑顔はおかしいので普通に柔らかな表情をしているだけだが、祐に敬語じゃなくていいと言われたからにはフランクな「本性」というものを作るべきだろうか。
参考にしようと祐にどういう口調がいいか聞いてみると、祐が驚く。
「えっ、諒さん敬語が素なんですか?てっきり神官の演技をしてたさっきが素だと…。まあでも、敬語の方が諒さんの雰囲気に合ってますけど。ていうかそれならわざわざ口調変えなくても…」
何故か複雑そうに遠い目をして後半の台詞を口にする祐。諒は祐の表情で彼がしている想像を察して、僅かに苦笑を漏らした。
「それは…偏りすぎではないでしょうか…」
祐が想像していたのは、無頼漢風の話し方で穏和ににっこりしている不気味な諒の図だった。
『魔法はなぁ、七つの属性に分かれてんだよ。分かってんのか、あぁん!?』と祐に教えつつ、にこやかに微笑する自分………非常に気持ち悪い…。
…などと、諒も反射的に祐と同じ想像をしてしまい、心底不快になって思わず顔を顰めた。
当然すぐに表情を戻したので祐には気付かれていないはずだ。気付かれたところで何も問題はないが。
それにしてもだ。
諒は嫌な想像をしてしまった、と非常に後悔した。
全く、変に口調だけ変えて態度が今と変わらないなど、当人の諒も…いやむしろ当人だからこそ引く。
諒の場合他人がやっても笑顔は崩さないだろうが、自分が実行するのは別だ。ひたすら気持ち悪いとしか言いようがない。
「何で俺が考えてることに感想が…諒さんもしかして読心術」とかなんとか呟いている祐を尻目に、ミスマッチさに虚しくなった諒は、気分転換に話を変えて祐に聞いた。
「ところで、祐さんはどれくらいのレベルまで魔法を使えるようになりたいですか?私が教えられる範囲ならどれくらいでも構わないのですが」




