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27

いきなり消失した仮面の神官と東洋系の顔立ちの青年に、当たり前ながら野次馬たちが固まる。


「…どこに行ったんだ?魔法か?」


「詠唱…はしてなかったし…」


「さっき雷使ってたから魔力はもうすっからかんのはずだろ…?」


混乱してざわざわとざわめく野次馬たちは、気付いていなかった。神官が青年をほぼ引きずるようにして、二人で人の輪から抜けていったのを。


その二人の気配は、限りなく薄かった。


通りすがりの一般人たちに気付けというのも、無理な話であった。


しかし代わりに――野次馬たちは想像力豊かだった。もともと噂好きな人間が集まってできた集団だ、それも当然だろう。


…そしてそのうち、野次馬の中の一人が、ぽつりと呟く。


「だったら…さっきのってもしかして、本当にイリス様の制裁の雷だったんじゃ……」




――この日、王都に新たな伝説が生まれた。


曰く、幼い子供を虐める男に、イリス神の天罰が下った。


イリス神の神官が祈った時、天罰は空を裂き、荘厳な雷となって男を焦がしたという。


一説によると、その祈った神官は、実は下界を見守るためこの世に降臨したイリス神の御使いで、神が一介の神官の祈りに応えたのはそれが理由だったようだ。




…諒のギルドマスターに難癖をつけられたくないだけの行動は、伝言ゲーム風に意味不明に持ち上げられて、後に王都の有名な話として知られるようになった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





さすがの諒も、自分の言動のせいで王都の伝説が一つ増えようとしているとは露知らず、野次馬から逃れるため自分と祐の気配をやたら薄くして路地に入ると、人がいないのを確認して隠形を解いた。


本日二度目の隠形プラス路地である。


前回と違うところは隠形の対象者が一人増えたところだけだ。


「ちょっ、神官さん何するんですか」


諒が袖を持った状態で路地に引っ張り込んだ祐は、さすがにじたばたと暴れている。


神官の正体が諒であることには気付かなかったらしく、諒のことは「神官さん」と呼んでいた。


せっかく観衆から逃れたので、諒は「神官さん」の正体をバラしてやることにする。


「祐さん、私です」


仮面を取ってにっこり微笑むと、祐が「あ!」と叫んで諒を凝視した。


「諒さん!?…っていうか、全っ然違うじゃないですか!なんで仮面被ってたんですか?」


「恨みを買って顔を覚えられて背中から刺されるのって痛そうで嫌ですから。…演技的には、どうでしたか?暇潰しになっていればいいんですが」


祐の問いに答えた後、諒はひとまず感想を聞いてみる。神官のふりとしては自信があったのだが、凡庸な神官と自称した割に少々図太すぎたかもしれない。


やはり男に襟を掴まれた時点で悲鳴をあげて怯えるべきだったか。


諒がそんなことを考えているとは知らず、祐が勢いよくこくこくと頷いた。


「すごかったです!知らない人だと思ってました。諒さんって神官だったんですか?」


諒は祐の質問の意図が分からずに少し思考したが、すぐに理解した。


祐は諒をこの世界の人だと思っているので、諒の職業が神官なのかと聞いているようだ。


「違いますよ。ただ、昔は神官でしたね。昔とった杵柄です」


「へぇー。なんか諒さんって神官とか魔術師って感じですしねー。…あれ、そういえばあの雷って…魔法ですか」


「魔法ですよ?」


目を輝かせ始めたので何を言い出すのかと思えば、やはり祐だ。最初に聞いた時にも興奮していた、魔法だった。


「やっぱりっ!魔法だったんですか!」


満足そうに「やっと派手な魔法が見られたー」と呟くと、急に真剣な表情をして何か考え出す。


ぶつぶつと「どうしよう…」「いやでも…」「図々しいよねいくらなんでも…」などと小さく言っている祐の様子に、諒は決心を促した。


「何か、私に?」


時折諒を見ては挙動不審になっている態度から、何か諒に頼みたいことがあるらしいのは分かっていたのだ。


内容もなんとなく想像がつく。


諒の予想通りなら、祐の頼み事は多少面倒ではあるが、特に忌避するほどのものではない。


諒としても、その話を受けることの交換条件に、地球のことや、帰郷する方法を聞いてみようと考えていた。


神と会ったとのことだから、何かヒントくらいは知っている可能性がある。


そもそもそれが目的で祐に近付いたのだ。さすがにまだ目的を忘れはしない。


祐が何も知らなくても、やる予定のことは帰郷の方法を探すことくらいのものなので、別に生活に支障が出るわけでもない。


行動を共にしていれば祐が無自覚スパイ役となって諒の動向がギルドに筒抜け、多少ギルドマスターに構われるといういらないオプションがつくが、それが嫌なら王都から、もしくは国から出ればいいだけだ。


監視されるのはいい気分にはならないが諒は気が長い方だし、おそらくそれなりの対処もできるので、大丈夫だろう。


諒はのんびりとした、ある意味では完璧な笑顔で祐の返事を待った。


祐は緊張しているらしくごくっと唾を飲み込み、口を開く。


「あの……魔法を、教えてくれませんか」


希望が通るとは思っていないのか、諦観した雰囲気のある祐に、諒は笑みを深めた。


そしてその祐の予想を覆すべく、さらりと首肯する。


「はい、いいですよ」


祐が驚倒して目と口をぱかっと開くのが、ふんわり微笑した諒の瞳に映った。

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