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「ファンタジー…ファンタジーだ…」


二階に上がり、宿の自分の部屋を見て祐が呟いた。どうやら、彼が想像していた「ファンタジー」な宿そのままだったらしい。


その祐曰くファンタジーな宿「閑雲」は、地球の、少なくとも日本の宿というかホテルと比べてしまえばそもそも時代が違うので格段に質は低いが、諒が村で泊まった宿よりはかなり上質である。


ギルドマスターお勧めということなので一応高級な宿のようだ。


祐はそんな部屋を一通り見渡してから、部屋のランプに目を留めて不思議そうに眺め、もう既に自分の部屋に荷物をいろいろ置いてきて祐の部屋の入口に立っている諒に尋ねた。


「このランプ…どうやったらつくんですかね?スイッチ的なものもなさそうだし…」


祐につかないランプを指して聞かれて、諒はランプを一瞥する。


この世界のランプは、世界全体の文明レベルは中世なのに何故か地球の現代と似たような形のランプで、地球では電気のところを魔力を一瞬通せばつく簡単なものだが、その魔力をどう伝えればいいのか。


魔法がない世界の住人だった祐には、いきなり魔力がどうとか説明されても意味が分からないだろう。


それを説明するにはまず魔法というものがどういうものか説明しなければならないが、教師でもない諒が一から十まで分かりやすく説明するのは難しい。


仕方ないので、とりあえず端折りまくって要点だけ説明することにした。


「それにスイッチはないですよ。何故か動物が使える、世の中の理を無視する摩訶不思議な謎極まりない力によってランプがつきます」


「……へ、へぇ、そうですか…。すいません、俺にはちょっと分からないです…」


諒の間違ってはいないが適当すぎる説明に、祐が困惑したように白旗を上げた。


諒はエセルに重力の魔法について話したように説明自体は苦手ではないが、長い話を語るのは(面倒なので)好きではない。


…が、今回に限っては教師の真似事をすることになるようだった。


諒は小さく息を吐き出し、もう一度ランプをちらっと見て軽く魔力を通した。


スイッチのないランプが、通された諒の魔力に反応して暖かいオレンジ色の光を放つ。


いきなりついたランプに驚いて目を瞠る祐に、諒はにこやかに笑ってみせた。


「説明すると長くなるので、座っていただけますか」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





それから一時間後。諒が魔法についての説明を終えると、祐が納得したようにふんふんと頷いた。


「つまりその魔力、とかいうものを通さないとランプはつかないわけですね。


俺がいた世界にも、実際にはなくて空想でしたが魔法が出てくる話はあったにはあったのでなんとなく分かりました。


神様にも剣と魔法の中世ファンタジーな世界に送るって聞かされてましたし。


…で、その肝心の魔力、俺にありますかね!?」


わくわくした様子で諒に詰め寄ってくる祐。魔法が使ってみたくなったようだ。


まあ、地球では使えなかった魔法を使えるというのだから当然、期待で気が高ぶるのも無理はない。


焦茶の瞳をきらきらと輝かせる祐に、諒は穏やかに伝えた。


「ありますよ。かなり膨大な量です」


「やったー!! 男の夢が叶ったっ!!」


祐は握り拳を天に突き上げてからガッツポーズをする。丸っきり子供である。


微笑んで見つめる諒の視線に気付いたらしく、祐は恥ずかしそうに慌ててガッツポーズをやめたが、まだ目は星のように光っていた。


「ご、ごほん。それで、属性とかって分かります?」


祐がわざとらしい咳払いをしてから話を戻す。


恥ずかしそうなので、諒はあえて祐の奇行については触れないことにして祐の中の魔力の属性を見た。


魔力量はともかく属性は普通見ただけでは分からないが、そこは諒。エセルに人外とまで断定された青年だ。当然のように属性が分かる。


「属性は…光と風と無、の三つのようですね。光属性を持っている人は千人に一人しかいないと言われています。さらに三属性の人は一千万人に一人くらいです」


属性を見抜いてさらっと教えると、祐があんぐりと口を開いた。


「一千万人…って…」


あまりのレア度に、さすがに開いた口が塞がらない様子だ。呆然とその数字を言う祐に、諒があっさりと断言する。


「はい、一千万人です。一国に、いえ数ヵ国に一人いるかいないかです」


「うわぁ…」


「祐さんは光属性もありますから、さらに珍しくなるかと。その上、魔力量もかなりのものですから、多分国などの勧誘が絶えないと思いますよ」


自分のことは棚に上げて、諒はにっこり笑顔で事実を述べた。


祐が呆れ返って黙り込み、しばらく部屋に沈黙が流れた。



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