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「うわぁ…!雰囲気のいい宿ですねー」


宿を見た祐が、顔を綻ばせて歓声をあげる。とりあえず、諒との恐怖の会話は脇に置くことにしたらしい。


諒は嬉しげな祐を微笑ましく眺めて声をかけた。


「出入口はあちらですよ」


「はい、そうですね!」


祐は明らかに浮かれた表情で諒の案内に従って宿の出入口まで来た。


諒は一瞬、この人は一人で異世界トリップしたのになかなか神経が太いですね、と思ったが、おそらく今は一時的に考えないことにしているだけだろうと思い至った。


一人になれば、自ずとトリップしてしまった恐怖もじわじわ込み上げてくるだろう。


祐がそれに耐えきれる精神力を持っているのかどうかは知らないが、割と子供っぽい性格のようなので考えすぎて心を病む、ということはなさそうだ。


壊れるような性格ならそれなりの対処をしてみようとも考えていたのだが、大丈夫そうである。


…だが、病んでしまう可能性も全くないわけではない。念には念を入れて祐の側にいた方がいいと思われる。


それに、せっかく同じ世界から来た人間がいるのにこのまま去ってしまえばここで縁が切れる。そうなると、話を聞くこともできなくなる。


祐がギルド本部に落ちてきた時から考えていたが、情報収集は大事だ。


諒は仕方なく、祐と同じくギルドマスターが勧める、この宿に泊まろうと決めた。ギルドの監視が鬱陶しいので野宿しようとしていたのだが、やむを得ない。


それに飽く迄も仕方なく、だ。


人助けはいいことかもしれないが諒の場合目的が不純である。


では目的がなければ人助けをしないのかと問われれば、しないことはないがその人助け自体も自己満足なので、救いようがない。


少なくとも諒はそう思っていたし、それを否定できる材料を持つ人間は今のところいないため、諒の思考は普通に自虐的になるのだった。


それこそ考えても仕方ないので切り替えは早いが。


諒はさっと意識を切り替え、宿の出入口の扉を開けながら祐に言った。


「一応、宿の方への対応は私がしますね。異世界となると違うことがあると思いますし」


祐がこくりと頷く。そこは考えていなかったらしく、確かに、と納得した様子だ。


実際はそう違うこともないが、言っておいた方が無難だろう。


諒も祐と同じ世界から来たことは、何かない限り聞かれなければ話さないことにしていた。


祐がギルドマスターなどと会話している時などに、うっかり口を滑らされても困る。


何かまた面倒なことになりそうだ。


宿の中に入ると、二十代後半くらいの男が諒が声をかけるよりに話しかけてきた。


「いらっしゃいませ。ようこそ宿屋『閑雲』へ」


どうやらこの男が宿の男主人らしい。


「わっ、美形…っていうか会う人会う人美形ばっかり…」


祐がイケメンオーラを発する男主人を見てぶつぶつと呟き始める。挙句諒の顔も盗み見て、さらに落ち込んでいた。


「東洋系の人まで美形だし。そういえばギルドマスターも男前だった…。うー、俺って…」


顔立ちの差に悩んでいるようだ。やはり諒が同じ世界の人間ということには気付いていない。


顔立ちの差と言っても、祐の容姿は美形とまではいかなくても普通よりは上である。


さらに、祐が美形とばかり出会うのは単なる偶然だ。大して地球と容姿の基準は違わないのだ。落ち込むことはない。


しっかり祐の呟きを聞いてしまった諒が何と言って祐を回復させようかと考えつつ、宿の主人との会話も進めているうちに、祐は一人で開き直ったようだった。


「一人部屋を二つ、お願いします」


「かしこまりました」


「あんまり対応変わらないなぁ」


どんより曇った表情を元に戻して諒と主人の話を聞いて頷いている。


「祐さん、私も部屋をとったので隣になりました。一旦部屋に行きましょうか」


その様子を確認し、諒は微笑んで宿泊の階である二階に祐を案内した。

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