21
そのあまりにも洒落にならない発言に、祐がぎょっと目を見開く。
「えぇぇぇぇぇーっ!?」
奇声を発する祐の大げさな反応に、諒が苦笑した。そこまで驚くことではないと思うのだが。
しかし、祐は異世界――平和な日本の出身だ。…諒は置いておいて。
そんな、人が大怪我をすることが少ない国の人間が、いきなり「目を抉られた」などと言われれば、驚くものなのかもしれない。
もはや忘れてしまった感覚に、諒は懐かしい思いを抱いた。今や彼は「腕を食いちぎられた」とか「脚を潰された」とか聞かされても平気になっているのだ。
昔のトリップでこの世界から地球に還って、日本の感覚に戻っているかと思ったが、変わっていないらしい。その時まだ幼かったので、トリップが人格形成に影響したようだ。忘れられるほど軽い内容ではなかったこともある。
まあ要するに、日本人には過激な体験をしてきたので慣れている、というだけだが。
そんなことを考えていると、絶句していた祐がばばっ!と効果音が付きそうな勢いで諒の方を向き、諒の右目を凝視した。
「よくショック死しなかったですね!! ていうか義眼なんですか!?」
「いえ。この世界には、治癒の魔法がありますから」
祐の疑問を、微笑んだ諒が否定する。
治癒の魔法は光属性であり、光属性が使える者は千人に一人程度しかいなかったりするが、もうギルド本部で登録しようとした際に紙に書いたため公言しても問題ないのだ。
しかし光属性の治癒で治ると言っても、あまり酷い怪我だと治癒の魔法でも治らないことがある。
それは治癒を行う人間の魔力濃度が高いか低いかの話になるが、濃度は属性と同じく才能で左右されるので考えても仕方ない。
魔力濃度とは、そのまま魔力の「濃度」だ。濃度が高ければ、濃度の低い者より少ない魔力で大きな効果を出すことができる。
幸い、諒は魔力濃度が高かった。
右目が完璧に再生したのはそのお蔭だ。もし魔力濃度が低かったなら諒の右目は抉られたままか、形だけ再生して目としての機能は戻らない、つまり目自体はあるが視力はない状態になっただろう。
今は気配と魔力の流れを感じる魔力感知だけでも十分戦えるが、目を魔獣に抉られた頃はまだ全部目で見て行動していた。
その上サバイバル(迷子)生活真っ只中だったので、右目が見えなくなることで視界が狭くなり、遠近も分からなくなって、魔獣に襲われた時反応が鈍って攻撃を避けきれず死亡していた可能性がある。
(そもそも幼い子供がサバイバルなどしている時点で危ないが)そう思うと、かなり危なかったようだ。
そしてショック死しなかった件だが、これはもう単純に苦痛に耐性があるからだ。
以前はトリップしてから魔獣に怪我をさせられまくり、時には割と命が危険な大怪我を負ったことも結構あった。
だが意識があれば、そして魔力を使いきっていなければ怪我は治癒の魔法でどうにか治せる。
そうして怪我をしては治す、というのを繰り返した挙句、目を抉られても概ね冷静に対処する精神力を身に付けたのである。…でないと普通に死ぬので。
しかも実は、昔はなんとしても生きようと必死だったため、何を思ったか抉られた右目を再生する際に魔力を籠める案を実行したのだ。
つまり、自分の右目を魔法具にしたわけだ。
激痛にのたうち回っているような状態のはずなのに、そんなことまで考えていたとなると冷静を通り越して痛覚が本当に存在するのか疑いたくなるレベルだ。諒は精神力も人外であった。
サバイバル当時は魔力量もそう多くなかった(一般的な魔術師二十人分くらい)ので魔法具があればいろいろ役にたつと思慮しての行動だったが、諒が途切れかける意識を保って目を治癒しながらも魔力を流し込んだ結果、半永久的に代償なしで、状態異常無効と無属性魔法の索敵(正確に分類すると空間探知)、隠形を念じるだけで使えるやたらと高性能な「目」ができあがった。これも魔力濃度が高いからだろう。
右目が魔法具だという証は、「目」を発動させている間だけ瞳に魔法陣が浮かび上がることだ。
今回のトリップで最初に使った魔法もこの索敵だった。
今の諒なら索敵くらい使っても魔力は全然減らないが、万が一に備えておかないと何が起こるか分からないので魔力を消費しない魔法具の右目を使ったのだ。
いずれにせよ、「目」の効果は昔のままで便利だ。
――自分の目を便利扱いしてしまう諒だった。
「目」のことは特に言う必要を感じなかったので言わなかったが、諒が簡単に祐に治癒の魔法を使ったことを教えると、祐は目に見えてほっとした顔になった。分かりやすい。
「そうですか…。魔法、あってよかったですね」
じゃないと治らないですし、と祐は付け加える。
諒は薄く柔らかい笑みを浮かべて祐の意見に首肯した。
「そうかもしれませんね…。ああ、そろそろギルドマスターお勧めの宿屋に着きそうですよ」
歩きながら体験談を話していた諒が一旦足を止める。つられて祐も立ち止まり、諒の視線の方向に目を向けると、そこにはこざっぱりした清楚な雰囲気の建物が建っていた。




