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裏口から出た後、諒と青年は屋根に穴が開いたギルド本部を見にきた近隣の住民たちの様子を見た。
どうやら、裏口の存在にすら気付いていないらしく、野次馬たちは二人には反応しない。
ギルドの関係者ではなく、同じ野次馬だと思っているようだ。
諒はさりげなくその場を離れ、青年も後に続い――
「…あのー。何で俺たちこんなに見られてないんですかね?堂々とギルド本部の近くから歩いて来てるのに。さすがに野次馬と勘違いってのも無理があるレベルですし」
「気のせいだと思いますよ」
にっこり。
諒が曇りのない笑顔で穏やかに言う。
実際は、二人が目立たないのは諒が青年も巻き込んで気配を限りなく薄くしているからだ。
…魔法は使わずに。
気配を消すのは、魔術師ではない普通の武人でもできる。しかし、常識的には自分以外の人間の気配を消すのは魔法でないと無理である。諒は一応、それくらいは分かっていた。
…たまに、忘れそうになるが。
先程もほとんど忘れていたのだが、青年の言葉と周囲の人間が二人に気付きにくい、どころか全く気付かなかったことを考え合わせ、ようやく思い出した。
とりあえず、笑顔でごまかすことにする。
青年は「そうですかね?」と首を捻っていたので、やはり武術の心得はないようだ。
歩き方からして隙が大量にあるので戦士ではなさそうだとは思っていたが、諒のように極力一般人のふりをして隙(と見せかけた罠)を敢えて作っている者も稀にいるため、聖剣を持っているだけに青年が本当に普通の人間かどうか見分けが付かなかったのだ。
本当は諒がその辺りが分からない者は神(爺)くらいしかいないのだが、諒はそんなことは知らない。
そのため、基本的に誰でも疑ってかかるのだ。
だが、今回はごく普通の青年のようである。
諒は一ミリくらい警戒を解いて、青年に話しかけた。
「ところで、自己紹介をしていなかったですね。私は諒と言います。年齢は十九歳、趣味は演技です」
「諒さんですか。俺は十七歳の葛西 祐です。…あ、こっち風に言ったらユウ・カサイかな?皆さん西洋な感じだし…。うーん、趣味は…特にないですね」
さすが日本人、エセルが微妙に間違えていた諒の発音も普通に合っている。
まあ、少なくとも青年…祐の謎の翻訳機能の成果ではないだろう。
諒がそんなことを考えていると、祐が不思議そうに聞いてきた。
「趣味の演技って何ですか?」
どうもそこが気になるらしい。
ギルド本部が見えなくなる場所まで遠ざかり、ギルドマスターが祐に勧めていた宿に向かって案内しながら、諒は説明した。
「そのままです。普通に性格を変えてみたり、死んだふりをしてみたり、という感じですね」
「死んだふり…」
「サバイバル生活をしていた時がありまして。逃げる戦う以前の問題の魔獣が出てきてしまった場合、死んだふりをすれば運が良ければそのまま去って行ってくれます」
諒とて最初から異常に強かったわけではないのだ。昔の体験を元に諒が丁寧に話すと、祐は青ざめて質問してきた。
「……運が悪ければどうなるんですか」
「巣に運ばれるかその場で…」
「あ、はい、分かりました、理解しました、本当に。
でも、諒さんは人が魔獣に連れていかれるのとか、その…食べられるのとか見たことあるんですか?」
ぶんぶんと頭を激しく横に振って諒の言葉の続きを聞くのを拒否した祐は、恐いもの見たさ(聞きたさ?)からかさらに訊ねてくる。いつの間にか自己紹介から妙な方向に話が向かっていた。
諒ははい、と頷く。
「前に実際連れていかれてしまったので…。あの時は死にそうでした。たまたまその魔獣が巣を出た時に、巣から脱出できたので生き延びたんです」
淡々と語る諒に、驚いた祐が素っ頓狂な声をあげた。
「は!? いや、ちょっ…」
「それと、魔獣に食べられてしまう人ならよくいます。冒険者さんが魔獣を討伐に行って、返り討ちにされることは結構多いんですよ。
その場面は見たことがあります。
私もサバイバルの際に、右目を抉られて食べられましたし」




