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「俺何も…いや、意図的には何もしてないです!むしろ俺も被害者!!」
ギルドマスターに冷ややかな視線を向けられた青年が、必死の形相で容疑を否定する。さすがに怪しいヒトとして牢には入りたくないらしい。この時点で器物損壊のような気がするが。
…というか、青年は日本語で喋っているのに言葉が通じている。
諒は理不尽さを感じて一瞬だけ眉をひそめた。
諒が以前この世界に来た時は、言葉が全然通じなかったのだ。青年はどういう仕組みで日本語をこの世界の共通語に変換しているのだろうか。言語の違う相手と意志疎通をする魔法なんて聞いたことがない。
諒が考え込んでいると、ギルドマスターは「ふむ…」と呟き、諒にもちらっと目を向ける。
結界を破ったのが魔獣ではなかったことに安堵したのか、顔色が大分戻っていた。
それでも油断はしていない。相変わらず、武器に手をかけたままだ。
「……で?お前は?」
諒に視線がきたと思えば、まさかの追及だった。屋根がものの見事に破壊された中で、逃げずに立っているのだから怪訝に思われて当然かもしれない。
しかし今回は全く関係ないので、変に疑われても困る。
そう考え、諒はなんとなく逆に恐ろしくなるほど無邪気な笑顔で断言した。
「野次馬その一です」
「………………………………………」
何故か、全員から途轍もなく重苦しい沈黙が返ってきた。
意訳すると、「こいつマジで何なんだよおい」といったところだろうか。
――この男、もしかして天然か。それとも狙ってやっているのか。
笑顔の諒以外の皆がそんな思考に頭を埋められそうになったところで、青年がぶんぶんと頭を振って脳を稼働させる。
意外に、一番立ち直りが早かったのは彼だったようだ。
諒の発言はとりあえず流し、乾いた笑みを浮かべつつ青年は懇願する。
「ま、まあそれはともかく…。俺は屋根壊す気なんてありませんでしたから。牢屋にぶち込むのはやめてください、ホントに」
「…では、お前は何者だ?どうして上から落ちて来た」
諒がにこにこと見守る中、ギルドマスターが鋭く問い詰めた。
諒としては、日本語や顔立ちなどからこの青年は地球の日本人ではないかと思っている。九割九分の確率で。
見ていると青年は目を泳がせて黙り、しばらくすると答えた。
「えーと…あのですね。魔法に失敗したというか、なんというか?」
何故か疑問形である。いかにもな嘘に、ギルドマスターが呆れた表情を見せた。
「嘘を言っても為にならんぞ」
「俺の場合本当のこと言っても為にならない可能性が…」
「…言え」
「すいませんでしたっ!」
ギルドマスターの氷の眼差しとそこはかとなく漂う冷気に、青年があっさり降伏した。
どうやら空気の読める人種だったようだ。
これが空気の読めない人種だったら、即座に牢屋行き一択だろう。
もともと盛大な器物損壊(しかもギルド本部)をやらかしているので、牢屋行き片道切符をプレゼントされるのに説得力は十分ではあるが。
諒が青年の察しの良さに感心していると、青年がすぅっと息を吸い込んで、普通の人間なら信じがたい言葉を発した。
「信じてもらえるかどうか分からないんですが…俺、異世界から来たんですよ」
「はぁ?」
これには、ギルドマスターのみならず幹部たちも揃って戸惑いを見せる。
さすがに、突然異世界がどうとか言われてもわけが分からないようだ。
一方諒は、やはりと頷いていた。これで自分の予想の裏が取れた感じだ。
ギルドの幹部たちは不審そうだが、諒は自分もこの世界にとっての異世界から来たクチなので信用できる。
同じように異世界から来る人もいるんですねー、などと適当なことを考えながら話を聞くと、どうも「神様」に地球から掻っ攫われてきたらしい。諒のように運が悪く迷い込んでしまったのではないようだ。
哀れな青年が自称神様の爺に聖剣を手土産に持たされ、言語の知識を頭に入れられた上に身体強化されてぱぱっとこの世界に放り込まれた理由が暇潰しと聞いて、諒は人知れず、あの爺をいつか消したいと深く願った。
神ならば大丈夫だと思われるが、他の誰かの恨みを買って呪われていたりしないだろうか。あの神ならあり得る。
…とかかなり不敬なことを思っていた諒は、青年の話が終わったのに気付きギルドマスターたちの反応を窺った。
ギルドマスターは青年の真剣さから話に嘘がないのを直感的に悟ったのか、低く唸っている。
少なくとも青年が、自分が真実と信じることを言っているのは分かるのだが、彼らは実例を知らないので、青年の話が事実かどうか判断できないのだ。
異世界など夢物語のような話を聞かされ、困惑しているわけである。
ギルドマスターたちにはむしろ、青年が精神を病んでいるとかいう説の方がまだ納得できるものだ。
微妙な表情で黙り込む一同をどう思ったのか、青年はあわあわと自身の装備を見下ろし、目に留まった聖剣を手に取ると鞘から抜いてギルドマスターにずいっと差し出した。
「これが証拠ですっ」
抜き身の聖剣を押し付けられてギルドマスターは大きく仰け反ったが、恐る恐るといった風に青年から柄を受け取る。
軽く目を細め、剣を鑑定した。
諒はもう鑑定を済ませているので、聖剣が本物だということは分かっていた。
大してギルドマスターと親交がない諒がそれを告げても仕方がないため、鑑定するギルドマスターをのんびり静観する。
少しして、ギルドマスターが聖剣を青年に返却する。そして改めて驚いたように言った。
「本物の聖剣だ」




