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エセルと別れた諒は、宿でも探そうかと思ったところでぴたりと足を止めた。
宿に、ギルドマスターの回し者が張り込んでいる可能性がある。王都には宿屋はたくさんあるが、ギルドマスターなら全て把握しているだろう。宿屋一軒ずつ見張られていたら、宿に入れば絶対見つかる。
黒髪黒目は多少は目立つので、それを目印に諒を探していそうである。
実際、エセルも髪と瞳の色彩で、自分を救出した青年が、父親であるギルドマスターに攻略すべしと教えられた「無駄に魔力が多くて腹黒い男」だと考えたようだ。無論、黒という色を持つ者は珍しくはあるがいないわけではないので、その他の情報も合わせてから確信に至っているはずだが。
ギルドマスターに自分が泊まる宿を知られるのは、面倒くさいから勘弁してほしい。
一応脅しはしたが、ギルドマスターは見るからに図太いので多分諒に文句を言われない程度に干渉してくるだろう。
まあ、当然と言えば当然かもしれない。
何しろ、突然自分の国に洒落にならない量の魔力を持った奴が何の前触れもなくやって来たのだ。
しかも慌てていくら情報を探そうと、異世界から来た諒の情報なんてものはない。目的すら分かっていないのだ。
魔力人外、正体不明、目的不明ときたら、そりゃ本人に黒い笑顔で警告されたとしても居場所の把握くらいはしたくなる。
「最初から魔力を隠しておけば良かったですね…。迂闊でした」
諒は前途多難な道のりに溜め息をついた。
今日は野宿になりそうだ。
だが、その前に冒険者ギルドに登録することにした。王都に来た以上は働かないと食べていけないし、ギルドではいろいろ情報収集ができる。
ギルドマスターと顔を合わせるかもしれないが、仕方ない。やむを得ず諒は冒険者ギルド本部がある場所へ歩き出した。
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諒は冒険者ギルド本部に着くと、感慨深げに建物を見上げた。
現在朝九時半頃、キラキラと輝く朝日がギルド本部の後ろから差し、なんとも荘厳な雰囲気を感じさせる。
さすが冒険者ギルド本部といったところか、初見の人間は入るのに躊躇するような迫力があった。
諒も昔は幼すぎて冒険者ギルドに登録できなかったため、一応は初見だが、諒は入るのを躊躇うような細い神経を持ち合わせていない。
建物の観賞(?)を終えて、諒が実に軽い足取りで建物に入ると、一瞬で「野郎共」と表すのが相応しい男たちの視線が集まった。戦闘職なだけあり、ほとんど全員筋肉がすごい。…というかむさ苦しい。
そんな険しい眼力の人間にじろじろ見られているのにも関わらず、諒は普通にいつも通りの態度で受付に向かう。
受付には、営業スマイルの美人がいた。受付嬢だろう。
むさ苦しい男たちの中で、ほぼ紅一点の美人は、見ているだけで眼福だ。
諒は美形を見る時は何となく芸術作品を見ているような感覚でいるので、熱い目…というより観察するような目で受付嬢を眺めていたが、当の彼女は初対面の諒に感心したように見られて内心戸惑っていた。
性的な、胸や腰を舐めるような視線は毎日浴びているので、不快感はあれども慣れているが、若い青年にこんなやたらと年寄りくさい反応をされたのは初めてなのだ。
もしかしてこの美形、見た目よりかなり年を食っているのだろうか、などと彼女は割とどうでもいいことを考えていた。
しかし伊達に受付嬢を長くやっていないので、営業スマイルは崩さない。
結果、美人受付嬢とにこにこ平和に微笑み合う美形新人の図ができあがった。
受付嬢も諒もポーカーフェイスなのは頂けないが、二人ともかなりの美形なので、周りのむさ苦しい男たちは見なかったことにすればとても目に優しい光景である。
筋肉男の一人が、美人受付嬢と微笑み合う諒を気に入らないらしく鼻を鳴らしたが、諒はそれには全く反応せず受付カウンターに近付いた。
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか」
受付嬢が諒に話しかける。諒は穏やかに答えた。
「ギルドに登録したいんですが」
「はい、登録ならこの紙に名前、性別、年齢、特技、もし特技が魔術なら属性を書いてください」
諒が新人であることは予想していたらしく、滑らかな動作で諒にペンと紙を渡す受付嬢。
さすが、熟練している。
諒が改めて感心しながら、昔覚えたこの世界の共通文字で名前と性別、年齢を書くと、特技のところで一旦ペンを止めた。剣も(諒の壊れた基準で)割とできる方だが、ここはやはり魔術だろうか。
特技なのでもう魔術でいいかと考え、諒は特技の欄に「魔術」と書き込んだ。
魔術だと属性を書く必要があるが、全属性を持っていると露見してギルドマスターと黒い笑顔で「お話」をするのが面倒なため、よく使う属性の光属性と水属性を書いておいた。…はっきり言って水属性はただの水分補給用だが。
そんな感じで個人情報を書き終わり、紙を受付嬢に提出する。
「ギルドカードは、お帰りになられる際に血を一滴カードに垂らしてくだされば明日までにお作りします。ところで、ギルドについての説明はいりますか?」
紙を受け取った受付嬢は、諒にそう聞いてきた。
諒は少し考え、頷く。
「そうですね。いります」




