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「それで。さっきの重力?の魔法って何なんですか?あんな魔法、聞いたことがありませんが」
細い路地の分岐点を右に曲がったり左に曲がったりして、大通りを目指しゆっくり歩いていると、エセルが聞いてきた。暇潰しと単純な好奇心だろう。
まあ、彼女のことなので一応諒の情報収集をしておこうという打算もあると思われるが。
特に隠しているわけではないので、諒は丁寧に説明する。
「そこそこ難しい魔法なので、一般的な魔術書には載っていないのでしょうね。探せば多分見つかると思います。
あれは、対象に重圧をかけたり、反対に軽くしたりする効果のある魔法です。
範囲を拡大すれば、魔力の消費は大きくなりますがこの国をまるごと潰したり浮かせたりするのも可能です。
先程の方々は、この魔法で体にかなりの重圧がかかって、潰れたカエル状態になっていたわけです」
カエルはこの世界にもいるので例にできる。色はやはり毒々しかったりするが。
潰れたカエルと聞いて、男二人の惨状と重ねたのか、エセルは少し青ざめたが、すぐに元の状態に戻った。
ギルドマスターの娘なだけあって、さすがに切り替えが早い。
感心している諒に、エセルはさらに質問してきた。
「その重力の魔法で、魔力はどれくらい消費するんですか?」
「大体…上級魔法一回分くらいですね。というか、上級魔法です。ただ、範囲によっては最上級になるでしょう」
「……………えっ!?」
実に軽く言われた内容を、間を置いて理解したエセルが驚愕の叫び声を上げる。
しかも、諒が無詠唱でそれを使っていたことを思い出したらしく、諒を見る目がだんだん得体の知れない生命体を見るものになってくる。
「…何で魔力が枯渇しすぎて死んでないか不思議なんですけど」
エセルが呆然と呟いた。普通に魔力がゼロになった程度なら死にはしないが、マイナスになると死ぬ可能性があるのだ。
因みに、最下級の魔法に使う魔力が平均で一とすると、下級魔法が平均十、中級魔法が平均五百、上級魔法が平均二千、最上級魔法が平均一万ほどだ。
最上級にもなると国救済または滅亡レベルなので、間違えて使うと(そもそも普通の人間なら間違う以前に圧倒的に魔力が足りないが)恐ろしいことになる。
諒はその、恐怖の最上級魔法を使っても余裕で立っていられる…というかむしろ無詠唱で何百回でも使える魔力を持っているため、上級魔法一回くらいで死ぬことはない。
昔この世界に来た時に、毎日気絶する寸前まで魔法を使って魔力を上げ続けた結果だ。
つくづくとんでもない規格外な諒であった。
エセルの呟きに、諒が返す。
「私は、それなりに魔力は多い方なんですよ」
エセルが諒を半眼で見た。
「無詠唱で上級魔法使うような魔力がある人は『それなり』に多いどころじゃありませんから。頭も切れるようですし、お父様ができればあなたに接触しろって言ったわけが分かりましたよ…」
「そうですか?私はギルドマスターを少し脅しただけですよ」
諒は、ギルドマスターとの会話を頭の中で回想しながら飄々と言う。
あの会話のゴシップ云々の脅しも、ギルドマスターが諒を殺す気がなかったから言えたことで、諒を殺そうとしていた場合は効かなかっただろう。いわゆる死人に口なしということだ。
――大人しく殺されてやる義理はないので返り討ちにするが。
もしその場合諒が脅しを使うなら、返り討ちにした後の話だ。
相手が諒を殺す気がない、今回のような時はさっさと脅した方が手っ取り早くて楽である。
…案外、諒は面倒度合いで物事を簡単に決めてしまうのだった。
良く言えば合理的、悪く言えば面倒くさがりなだけの諒だが、エセルは自分の父でもあるギルドマスターを脅したと聞いて諒から微妙に引いている。
エセルの感覚では、自分のみならずまだまだ知謀では叶わない父親まで翻弄している諒は、膨大な魔力も相まってもはや人外だ。
これが諒となるとあながち過剰な評価ではないのが残念だった。




