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黒髪黒目の青年――異世界人魔術師、飛鳥部 諒は、エセルと名乗った少女の人柄と頼みを、一瞬で吟味していた。


結論は、「この少女はそれなりの策略家」で、頼みは却下。


立ち居振舞いからして、エセルは良家の子女だろう。平民の服を着ているが、それはお忍びで出かけたからだと思われる。


それは別にいい。いや、面倒事に巻き込まれそうなので全く良くはないが、それは置いておく。


問題は、エセルが頼みを言う二秒ほど前の、彼女の表情の変化だ。


エセルは、自分の頼みを言った際、僅かに笑っていた。気付かれていないと思っているだろうが。それ以前に笑みを浮かべたことにすら自分では気付かなかっただろう。


相手を思い通りにしようとする人間の、狡猾な笑みに。


彼女のポーカーフェイスは完璧ではない。


だが、なかなかうまい。


諒はそう思い、エセルが策略家だということを頼みを聞いて確信した。


『報酬は出すので、一時的に私の道案内兼護衛をしていただけませんか?』


エセルが言ったこの言葉の問題は、「一時的に」というところだろう。


まあ思惑がない場合でも言う人はいるような言葉だが、思惑がある場合は訳すとこうなる。


『報酬は出すので、私が危険な時道案内兼護衛をしていただけませんか?』


多分報酬は諒がエセルの頼みを引き受けた時に決められるのだろうが、普通の人間だったら、一回きりの道案内兼護衛くらいなら報酬などいらないと言うか、一回分の安い金額を提示する。


エセルはここでそんなに安い金額でいいのか、などと大袈裟に相手に感謝するだろう。


相手は美少女のエセルに感謝され、単純に嬉しくなる。


――まさか、一回きりの道案内兼護衛ではなく一生働く半永久的な護衛だとは思わない。


そして、もう言質を取られてしまった相手は、一生安い賃金でエセルが危ない時の護衛として働かされることになる。


仮に、相手が騙されたとエセルを弾劾したとしても、良家の子女であろう彼女の立場は高い。エセルが、確かに護衛になってくれると言った、とでも言えば、悪いのは相手になる。


エセルは嘘など言っていない、勝手に相手が勘違いしただけ。間違いなく詭弁だが、そういうことだ。


だから、諒は断った。


一見すると道に迷ったいたいけな美少女に強欲な青年が金を揺すっている図に見える諒とエセルの会話だが、真実はこれである。


全く策略家は恐ろしい。油断するとすぐに足元をすくいにくる。


にこにこと笑いながらきっぱりとエセルの頼みを却下した諒に、エセルが驚愕の目を向ける。断られるとは思わなかったのだろう。


「な、何故ですかっ」


「嵌められて一生働きたくないですから」


諒がさらりと言うと、エセルが明らかに動揺した。


「私がそんなことするわけがないでしょうっ!し、失礼ですよ!」


目が泳いでいる。相当動揺しているらしい。


真意を見破られるのは初めてだったようだ。


まあ、彼女の狡猾さからいくと世の中の人間の八割くらいは騙されるだろうから当たり前か。


諒はそんなことを考えて、明るい笑顔でさらにエセルを追いつめる。


「あなたのお父様、冒険者ギルドのマスターですよね」


「何故それをっ」


「魔力の波長がギルドマスターと似てます。あと、私を見た時の反応ですね。


私を見つけたら適当なことを言ってギルドマスターの邸に連れてこいとか言われたのでは?言いくるめて私を服従できたらなおいいとか。だから早速私を探すために街に出てきたのでしょう?


今日会ったのは偶然ですが」


心を読んでいるかのように次々と言い当てる諒に、エセルの顔色がどんどん悪くなっていく。


「あ、あなたは…。読心の魔法を使えるのですか…。そんな魔法があるとは聞いてません…」


掠れた声で呟いたエセルは、もはや顔面蒼白である。


諒は穏やかに笑って答えた。


「そんな魔法はないですよ。ただ観察しているだけです」


「そ、そんな…」


エセルはがっくりと肩を落とした。完全に燃え尽きている。


…何でもいいが、もう諒が言ったことを全て認めているような気がする…。


そのうち、エセルが顔を上げて宣言した。


「負けました。降参です!」


自分の中でいろいろ割り切ったらしく、清々しい表情をしている。


「お父様に無理でしたって言うことにします。お騒がせしてすみませんでした」


諒がほのぼのと見送る中、エセルは深々と低頭し、走り去る…と思ったら途中でぴたりと足を止めた。そして、情けない顔を諒に向けてくる。


「………ここ、どこですか?」


…彼女には意外と抜けているところがあるようだ。


諒は苦笑して自分から申し出た。


「道案内しましょうか?」



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