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「プレイヤーBってのは、感情や感動がまったくないアタシ。無価値なアタシ。アタシでなくてもいい、アタシ」
おっ、ちょっと詩的なことを言い出したぞ。
「世の中にある仕事って、じつは大半がプレイヤーBでこなせるものだよね。時給800円の仕事があるとするじゃない? それは誰がやったとしても、時給はおなじ。アタシじゃなくても、いい。たとえ時給が3000円でもおなじ。求められているのはアタシじゃなく、3000円分の仕事をしてくれるロボットなんだ」
「また極端だね」アタシは苦笑した。「じゃあ、貴女じゃなきゃできない仕事って?」
「ない、そんなものは」彼女は自嘲するように笑った。「でもアタシにしか撮れない記録なら、ある。それがさっき言った、カメラマンとしてのアタシが撮ってる記録だね。じゃあ、舞っちんぐ、キミはこの記録を1000万円で買ってくれるかい?」
「ケタがおかしいよ、ぼたん」
「だね。じゃあ3000円なら?」
「うーん……」
アタシが唸ると彼女は爆笑した。
「だよね! きっとタダでも要らないと思うよ。つまり、そういうことなんだ。アタシたちは機械的な仕事に身を委ねて、それで稼いだお金を全部そのフィルムの制作費にまわしている。誰も観たがらない、でも自分にとっては最高に笑えるフィルムに」
「どうしたの、ぼたん。異常にテンションが高いけど」
「うふっ、じつはさ……すっごい面白いフィルムが観られるんだよ」
彼女は笑いながらそう言った。ちょっと怖かった。
「このね、石の穴から観てみなよ。観ちゃいなよ」
彼女はなおも笑い続けている。穴というのは、石の筐体に設けられた小窓のことだろう。ぼんやりと青白く光っている。
アタシは覚悟をきめた。どうやらここは避けて通れそうにない。小窓のむこうに、なにかがある。核心に迫るなにかが。
おそるおそるアタシは筐体の小窓を覗いた。
ん? なんだこれ、デジャヴか。
小窓のむこうにも、ぼたんがいた。ふたりで楽しげにパチスロを打っている。もうひとりはアタシだ。そのアタシが問題だった。
どう見ても人間には見えない。でっかい牛みたいな化け物……なんつったっけ、ミノタウロス?
ああ、いま思い出した。アタシが最初に出くわしたモンスター上司。これがまさに、いまアタシが見ている牛の化け物にほかならない。
すると、あの上司はアタシだったのか。ちょっと待ってよ。じゃあその上司と対面したアタシはいったい、なに?
不思議な感じがした。さきにぼたんが話してくれた、カメラマンが云々という話とも妙に合致する。
もはやどれが主体で客体なのかさえ、わからない。世界がぐるぐると回りはじめた。
とりあえずアタシは気絶した。




