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アタシの読みどおり、建物のなかはパチンコ屋さんだった。
パチンコ屋さんに入ること自体そう何度も経験しているわけではないが、ここは世界でも最も静かなパチンコ屋だと思う。
まったく音がしない。きらびやかな照明もない。まるでお通夜みたいだ。
パチンコやパチスロの筐体とおぼしきものがフロアのいたるところに設置されている。
が、やはりちょっとヘンだった。これまでに見た家屋よろしく、四角に切り出した石材そのものである。不謹慎だが、これでは墓石だ。
その石の筐体にもちょっとした小窓がもうけられていて、そこがぼんやりと光っている。それがもしかして液晶画面なのかな……まあ、いいや。
お客さん、つまり半透明の棒人間たちだが、その姿が見えなかった。もしかすると、さきにアタシが建物の壁を破壊したことでビビッて逃げてしまったのかもしれない。
誰もいない、いや、そんな筈はない。アタシは石の筐体が設置されている島を隈なく調べて行った。
いた! いたよ……ちょっと泣きそうだ。あの後ろ姿。デニムのロング・スカートに、似たような生地のブラウスを腕まくりしている。そして若干チリチリのソバージュ・ヘア。
アタシが会いたかった人物は筐体のほうから、くるりとこっちを向いた。
「やあ、舞っちんぐ。ちょうど連チャンが終わったところ」
まぎれもなく、ぼたんだった。が、いざ再会してみると、なにから話していいかがわからない。
意外にも彼女のほうから話を切り出してきた。
「ねえ、舞っちんぐ。気持ち悪い話、してもいい?」
「えっ……まあ、いいけど」
ここまできたら、もうなにを聞かされても驚くまい。
「最近とくに感じるんだよねー。アタシのなかに複数のアタシがいるって……あっ、多重人格的な話じゃないよ。全部アタシなんだけど、それぞれ役割が違うってゆうか」
「どういうこと?」
「アタシ、毎日パチンコばっかりやってるじゃない? じゃーアタシをパチンコに向かわせているのは誰なんだって話」
「それは、ぼたん自身でしょう」
「そう、それが一人目のアタシ。監督だね」
「なるほどね」アタシはうなずいた。「その監督が、パチンコを打ってこいって指示しているんだ?」
「そうそう。勝っても負けてもね、どっちでもいいんだ。監督の指示には逆らえません。パチンコを打ってはいかん、っていう指示が今後、ないとも限らないしね」
「ふうん、監督がいるってことは、当然役者さんも……」
「だね。プレイヤーにもAとB、二人いるんだ」
「プレイヤー……って、なんかゲームっぽいね。あ、でもそうか、パチンコだけにね」
「うん」と彼女は笑った。「人生っていうシナリオをアタシっていう役者が演じている、というよりかは、監督の指示でゲームに興じているっていうほうが感覚的に近い」
「で、さらにその一部始終を記録しているアタシがいる。カメラマン的な立ち位置だね」
「うーん。こうして聞いていると、ぼたんの人生って、なんだかパチンコ番組みたいだね」
「まさにそれ。その番組を観て楽しんでいる、視聴者的なアタシもいるわけで。いや、むしろ監督かも」
「……ごめん、何が言いたいの?」
「あっ、いやいや、この話にオチはないんだよ。ただ最近、そんな風に感じているってだけで」
少し間をおいてからアタシは聞いた。
「でも、ちょっと気になる。プレイヤーのAとBって?」
「うん。プレイヤーAってのは、感情や感動が表に出ているときのアタシかな。すごくポジティヴってゆうか」
「じゃあ、ふだんはB?」
「いやいやいや」彼女は爆笑した。「こう見えて、感情出てんのよ? そっか、表には出てないか。じゃあ内部的に、でもいいや」
「感情って、嬉しいとか?」
「うん。激アツの演出とかくると、もうね」
「逆に哀しいとか?」
「激アツの演出でハズレとか、もうね」
アタシは思わず肩をすくめた。ついていけない世界だ。




