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遠くに見えていた町が間近にせまっていた。
町には周囲をかためる城壁のようなものはなく、いきなり家屋が連なり始めた。どれも「ぬりかべ」のような石造りの家で、窓らしきものはあったがドアがなかった。
辺りが薄暗いなか、灯りを点している家は見当たらない。見るからに生活感がなく、廃墟そのものだ。
と、そのとき信じがたい光景を目の当たりにした。
石壁に固められた家から、クラゲみたくシースルー仕様の人間がすり抜けてきたのだ。かろうじて人の形だと認識できるが、ほとんど漫画にでてくる棒人間と遜色ない。クラゲよろしく、ときおり乳白色に発光している。
なるほど、と思った。壁をすり抜けることができるなら、たしかにドアはいらない。窓は逆に向こうからこちらを確認するためか。自分で発光できるなら、電気もいらないしね。
念のため用心したが、棒人間が襲ってくる気配はない。っていうか、アタシの存在に気づいているかも微妙だ。
すごいフワッとした感じで彼は歩いて行く。アタシはそのあとを追った。興味があった。
途中、数人の棒人間たちと合流した。彼らはお互いを意識していないようだが、どうやら同じ場所へ向かっているらしかった。
やがて目的地が判明した。ひときわ大きな建物があらわれたのだ。
ぽつんぽつんと、棒人間たちが建物の壁の中に消えていく。反対に建物から出てくる棒人間もいた。
予感がした。この建物はたぶん、パチンコ屋さんだ。
パチンコといえば、わが友人ぼたんである。彼女にこの異世界で逢えるかもしれない。そしてきっと、それがこのファンキーな旅の終着点なのだ。
アタシは勇んでその大きな建物に近づいた。
問題はこの壁だ。アタシは棒人間ではないから、たぶんすり抜けることはできないだろう。試しにやってみた。ダメだった。
ここで引き下がるわけにはいかない。アタシは石壁にコブシを当ててみた。石の質感は伝わってこない。いまのアタシにリアルな感覚はない。
手荒なことは性に合わないが、ここは壁を破壊してでも建物のなかに入りたい。指をくわえて見ている場合ではないのだ。
呼吸を整えたアタシは、一撃必殺の構えをした。完全に自己流だ。
そのまま渾身の力で壁にパンチした。これまで数多のモンスターたちを駆逐してきたコブシだ。どんなに硬い壁だって……
ダメだった。びくともしない。えー、ウソでしょ? 続けざまにパンチを繰り出した。
全然ダメだ。悔しくて、ちょっと泣けてきた。その場にへたり込んでしまった。
この暖簾に腕押しのような、コブシへの反応の無さがなんとも歯がゆい。いっそコブシが砕けてしまったほうが、まだマシだ。
「なんなのよ、もーっ!!」
ヤケになったアタシは、座ったままの状態で壁に額を打ちつけた。
いきなり何千というフラッシュが同時に焚かれたような、ものっそい光の渦がアタシを包んだ。
この感覚には憶えがあった。タキオカがアスカさんを攻撃したときの、あの閃光だ。
やってもうた。アタシの額にはタキオカと同じ、悪魔の芽が植え付けられていることを、すっかり忘れていた。刺激しちゃマズいって、アスカさんに釘を刺されていたのに。
気がついたら目の前の壁が砕けていた。アタシはついに悪魔になってしまったのか……ま、結果オーライってことで。
砕けた壁の隙間から、アタシはおずおずと建物のなかへ入って行った。




