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走った。ふだん滅多に走らない三十路女が、ただひたすら。
苦しくはなかった。やはりこの世界では肉体的な疲労を感じないらしい。ただ不思議な高揚感があった。人狼になり果てた憐れなオオカワを叩きのめしたときに味わったのと、よく似た感覚だった。
言っておくがアタシはドSではない。人知を超えた力を得たときの高揚感とでも呼べばいいのか。いずれにしても経験したことのない感覚だ。
モンスターたちは、うようよいる。できれば相手にしたくないのだが、行く手を阻むものについては排除しなければならなかった。
走りながらモンスターたちをなぎ払っていった。アタシはさながら暴走機関車だ。
と、そのとき隣に人影を見た。なんとその人物はアタシと並走していた。女性だった。
「チャオ、あなたが舞っちんぐね!」
うっわ、なんか面倒くさそうなのが現れたぞ。
「ごめん、誰?」
アタシがそう、ぶっきらぼうに言うと、彼女は心底驚いたような顔をした。
「マジで? なにも聞いてないの?」
「ええ……」とアタシ。
「ホクト・アスカだよ。本当に知らない?」
あるいは彼女は有名人なのかもしれない。すごい恰好をしている。
「残念ですが」
悠長に話しているようだが、こうしているあいだもモンスターたちは待ってくれない。アタシは少し慣れてきて、怪物どもを叩かずともかわせるようになった。
ところが隣の御仁はどうだ。まるで五月蝿いハエを追っ払うかのように、やすやすとなぎ倒している。できれば彼女とは戦いたくないと思った。まあ、敵である感じはしないけど。
「ごめんなさい。女子プロレスラーのかたとか、あまり詳しくないので」
「違うっつーの、失礼ね!」
えっ、違うの? どうやってもそっち方面にしか見えないぞ。名前だってそれっぽいし。
「……あなた、ハナノエイジのページ、見なかったの?」
「見ました」
なぜか敬語になっているアタシがいる。ちょっと圧倒されている。
「だったら知ってるでしょーよ」
「彼の小説は読みましたけど」
ハナノエイジことオオカワエイジの作品は、いちおうすべて目をとおした。ホクト・アスカなんて出てこなかったと思うが。
「それ以外は?」
「ほかになにか、ありましたっけ」
アスカさんは額に手をあてた。なぜか「さん付け」しているアタシがいる。
「あなたね……ネット小説の醍醐味といったら、ユーザどうしの繋がりでしょーよ。感想欄とか見なかったの?」
「見ませんでした」
そんなものがあったことすら知らなかった。だが、そうか、作品の管理だけでなくそういう機能もあったのか。
「すると貴女は、エイジさんのファンですか」
アタシはあえてオオカワという本名をださなかった。
「逆よ。アタシはまあ、彼の師匠みたいなものね。文芸創作の」




