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「ちょっとタキオカさん、神出鬼没じゃないですか」
「だから……いまはルシファーですって」
アタシはそれには取り合わず、
「今度はしばらくいてくださいよ。寂しいじゃないですか」
タキオカは、ゆでだこのように真っ赤になった。なんか勘違いしてるっぽいぞ。
「あの、寂しいんでしたら、オレがお相手しましょうか」
「残念ですけど、お話以外のことはしてくれなくて結構。ヘンなことしたら百裂拳……じゃなくて、あれ、なんでしたっけ?」
「さあ……」涙目のタキオカ。
「それで、ボーナス確定って?」
「あちらの方が大当たりされたようです」
タキオカは窓を指した。現実でパチスロを打っている、わが友人ぼたんのことだろう。
「ねえ、ここってやっぱり、パチスロのなかの世界なの?」
「そうみたいです。……えっと、ちなみにオレも好きでやってるわけじゃあ、ないですから」
「違うの?」
「違いますよ。どうせだったらお姫様を救う勇者の役、やりたいです。それがこんな微妙なサブキャラだなんて」
「守護天使なんでしょう?」
「いちおう、そうみたいですけど、ただのチャンスアップ・キャラですからね」
「チャンスアップ……何の?」
そこで彼が説明してくれた。なんでもボーナス確定後に守護天使タキオ……じゃなくてルシファーが出現すると、その後の連チャンに期待が持てるそうだ。
まあ連チャンしても、ぼたんが喜ぶだけで、アタシにメリットはない。むしろ何連チャンしたらここから解放されるとか、ないのかなあ……。
すっかり忘れていた、アタシがぶっ飛ばした人狼さんのこと。
例のごとく、バトルの痕跡を示すものは何も残っていなかった。ボコボコにされた人狼さんも、さっさと捌けてしまったようだ。
「さっきの狼男みたいなヒト、なんだったの?」
「ああ、あれオオカワさんです」
「ええーっ!」
なんだよそれ。悪いことしちゃったな……いや、でも襲ってきたのは彼のほうだし。
「なぜ彼が狼に?」
「よくわかりませんが、なんでも、ネット小説家を目指していた男が夢破れて、狼になってしまいました的な。そういうストーリー系の演出らしいです」
「なにその『山月記』みたいな設定。あれは虎だっけ。まあ、いいけど、なんでアタシが襲われるのかな?」
「わかんないっす」彼は言った。「なんか脈絡がないっていうか。全体が見えない感じっす」
「そうね。……ねえ、タキオカさん。あなた、出現していないときは、どこで何をしているの?」
すると彼の表情が若干曇った。
「わかんないっす。でも、あまりいい状況じゃない気がする。薄暗くて、ちょっと寒いような……」
なるほどと思った。それは死の感覚に近いかもしれない。




