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オオカワエイジ……アタシにとってのキー・パーソンだ。
彼と関わらなければアタシがこの現場へ来ることはなかっただろうし、ひいてはこの異常な状況に巻き込まれることもなかったかもしれない。
いや、どうなんだろう。トリガーが友人ぼたんだったとすれば、いずれ似たような境遇になったとも考えられる。
まあ、いいや。先ほど変身したタキオカと会ったように、今度はオオカワについて触れるターンなのかもしれない。
オオカワと小説投稿サイト。両者のつながりが今ひとつ見えないが、目の前のディスプレイには彼の個人ページと思われる画面が表示されている。
ああ、いま思い出した。新橋で3人で飲んだときの、彼の言葉。
『作家でも目指そうかな』
たしかに彼はそう言った。すでに昔の話の可能性もあるが、少なくとも小説に無縁の人間が言う台詞ではない。
彼は自作の小説をこのサイトで発表していたのか。どれ、暇つぶしに読んであげよう。なんせ時間はたっぷりあるからね!
彼の作品は3つあって、ひとつがエッセイ、残りが創作の小説だった。3作品のうち、ひとつがすぐアタシの興味を惹いた。パッと見て自伝的な小説だとわかったからだ。
その小説は、読めば近年オオカワがなにをやってきたか丸わかりになるほど、詳細に描かれていた。もちろん小説なので、すべてが事実と捉えるわけにはいかないが、少なくとも彼のオペレータとしての側面を知るには充分だった。
オオカワは前の現場で問題を起こして即退場となった。が、彼はその現場に6年もいたのだ。そのあいだに彼になにがあって、どんな心の動きがあったのか、それは担当とはいえ部外者のアタシらには、なかなか知り得ないことだったりする。正直かなり興味深かった。
と、そのとき新たな来訪者がやってきた。このタイミングで?
またしてもモンスターだった。が、前回とは違い、なぜか醜悪な感じはしなかった。
それは全身が真っ白い毛に覆われた人狼だった。赤い目、剥き出しの牙……なんかダーク・ヒーローっぽい。興味はないけど。
「わたくし、舞っちんぐと申します。以後お見知りおきを」
冗談のつもりだった。が、まさかこれが発動キーだったとは。アタシは変身した。己の意思とは無関係に。
つぎの瞬間、人狼がアタシに襲いかかってきた。えっ、
「剛流拳百連発――っ!!」
どこかで声がした。アタシじゃない。ナレーターさん?
「ほあたたたたたた!! ほあたあ!!」
武術の経験なんてまったくないのに、コブシが勝手に動いた。ヘンな声まで出た。
人狼がちょっとかわいそうだった。一度に百発ものパンチを食らって、顔や体が歪に変形してしまった。
あらためて自分の手足を見つめた。なにかとんでもない化け物にでも変化してしまったかと思いきや、意外とそうでもなかった。
アタシの手には、格闘技で使うようなグローブがはめられていた。指あきタイプのやつだ。脚にもプロテクターっぽいのが着けられている。
胸から下は、白のタンク・トップに、ピンクのボクサー・パンツといういでたちだ。ものっそいスポーティである。いちおう、まだ女子であるようだ。自分の顔は相変わらず確認できないが。
「ボーナス確定です」
うしろで声がした。振り返ると、そこにタキオカの姿があった。




