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コール・マイ・ネーム  作者: 大原英一
第2章 異世界と違世界
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 さて、どうしたものか。どうやらここは、マトモな世界ではないらしい。

 とりあえず、やることがある。逃げることだ。アタシはドアのほうへまわった。ドアノブを握ろうとしたのだが、何故かそれができなかった。

 イヤな予感がした。もう一度やってみる。なんだこれ。

 ドアノブに触れることができない。ホログラムのようにすり抜けてしまうのだ。ヘンな汗がでてきた。アタシはドアに体当たりした。ドアにぶつかったという感触がなかった。

 覚悟はしていたが、実際に確かめると、やはりショックだった。このドアは、あくまで観念的なものであるらしい。

 窓際でも同様のことを試したが、こちらもお飾りのようだ。開けることはもちろん、窓に触れることすらできなかった。

 窓からは、あいかわらず友人ぼたんがパチスロに興じているらしい姿が見える。これがまるで映写室から遠くの巨大スクリーンを眺めているようで、じつに奇妙な感じがする。なんなのだ、いったい。


 途方に暮れた。だが考えることは山ほどあった。

 まず、アタシはこのオフィスに閉じ込められたらしい。ということは、誰かが救出してくれなければ、アタシはここで餓死するのだろうか? ……どうもそんな感じはしない。ここは物質的な世界とは違うような気がする。

 それと、アタシ以外の人間その他の存在だ。ここにさっきまで、得体の知れないモンスターと同僚のタキオカがいた。タキオカはルシファーと名乗り、さらにちょっと変身していたから、あるいは人間ではなかったかもしれない。

 彼らはこの部屋でひとしきりバトルを繰り広げたあと、両者ともどこかへ消えてしまった。この閉鎖された空間から、どうやって出て行ったというのか。

 そして何より気になるのが、窓の外の巨大スクリーンに映し出されたわが友人ぼたんである。彼女は「こちら」を向いて、どうもパチスロを打っているらしい節がある。するとつまり、こちら側がぜんぶパチスロの世界ではないか、というのがアタシの考えだ。

 パチスロの世界、それは言うなれば、二次元のゲームの世界である。

 アタシはいま、奥行きのない液晶画面のなかにいる。そう考えると、いろいろのことに説明がつく。

 アタシがこのオフィスから出られないのは、当面ここが滞在ステージとして選択されているからだろう。今後何らかの契機によって、ステージ・チェンジする可能性は十分ある。

 それと突然あらわれた闖入者たちだが、彼らもたぶん、何らかの演出でバトルを展開したのだろう。演出が終われば、彼らはすっと消える。何の痕跡も残さずに。だがこれまた何らかの契機によって、彼らその他の有象無象が出現する可能性は十二分にある。


 頭が痛くなってきた……気がするだけで、実際の感覚ではなかった。

 アタシはいま、どんな存在なのだろう。生きているのか死んでいるのか。そもそもアタシは本当にアタシなのだろうか。

 不安になって自分の手足を見つめた。黒のジャケットとパンツ。今日は入職の日だったのでちょっとフォーマルにしてみた。服装に変わりはない。胸も手足もお尻も、いちおう自分のものであるようだ。

 だが、顔は? 無性に自分の顔が見たくなった。

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