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赤土の畑のとなりで ―人口5000人の町に、何かがある―  作者: 泥靴


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第27話 三年ぶりの土

語り手:木下蓮(12歳)



秋になったら連絡して、と町長に言われたのは、夏休みの終わりだった。


九月になって、すぐに電話しようかと思った。

ただ、「秋」というのがいつから秋なのか、少し迷った。

九月はまだ暑い日がある。

十月の初めに、父に相談した。


「電話してみていいかな」

「してみろ」


それだけだった。



役場に電話すると、先に中島さんが出た。


夏に一度話したことがある人だ。

名前を言うと、すぐ分かってくれた。


「町長に取り次ぎますね」と言って、少し待った。

町長が出た。


「約束、覚えてますか」と聞いたら、

「覚えている」と言われた。


来週の土曜日の午前中に、畑で待っている、と言われた。

父も一緒に来るように、と。


電話を切って、父に報告した。

父は「そうか」と言った。

それ以上は何も言わなかったが、悪い顔ではなかった。



土曜日の朝、七時に起きた。


父は、もう台所にいた。


「準備できたか」

「できた」

「ノートは」

「持った」


父は珍しく先に外に出た。

急いでいる感じはなかった。ただ、先に出た。



畑の前に着くと、町長がもう来ていた。


長靴を履いていた。いつものジャケットではなく、作業着のような上着だった。

柵の外で待っていた。


「来たな」

「来ました」


町長が鍵を開けた。

柵の中に入ったのは、三年ぶりだった。


三年前は、父に連れてきてもらって、気づいたら中にいた。

今回は、自分でアポを取って、自分の足で来た。

同じ場所だが、少し違う感じがした。



土の色は、三年前と変わっていなかった。


濃い赤だった。

写真で何度も見ていたし、柵の外からも何度も見ていた。

ただ、中から見ると、少し違う気がした。


量が、多い。

当たり前だが、外から見るより、内側の方が赤土が多い。

四方を囲まれている感じがした。


においがした。


三年前のことを、少し思い出した。

同じにおいだった。



「触っていいですか」


町長に聞いた。


「どうぞ」


しゃがんで、土に手を触れた。


ひんやりしていた。


三年前と同じだった。

やわらかさも、同じだった。


ただ、なんというか、三年前より静かな感じがした。

最初に触ったとき、驚きがあった。

今は、驚きはない。

ただ、何かを確認している感じだった。


「下の方が、もっと赤かったと思うんですけど」


「少し掘ってみるか」


町長がしゃがんで、少し土を掘った。

表面から数センチのところに、濃い赤が出てきた。


「本当だ」


自分でも分かっていたことだが、声が出た。



ノートを出して、記録した。


手触り。温度。色の変化。におい。

三年前には気づかなかったことを、今日はいくつか書けた。


「なんで赤いんですか」


また聞いた。夏に町長に会ったときも同じことを聞いた。

違う答えが返ってくるかもしれないと思ったわけではない。

ただ、また聞きたかった。


「鉄分が多いから、というのは聞いたことがあるか」

「あります。図書館の本に書いてあって」

「それが一つの理由だ。ただ、それだけじゃないと思っている」

「なんで鉄分が多いんですか」

「それが、よく分からないんだ」

「分からないんですか」

「私が生まれたときから、こうだった。なぜこうなったのかは、まだ分かっていない」



町長が答えないことと、答えられないことは、違うのかもしれない、と思った。


夏に会ったとき、「なんで変わるんですか」と聞いたら、「分からない」と答えた。

今日の「なぜ鉄分が多いのか」も、「分からない」だった。


誤魔化している感じはなかった。


本当に分からない、と言っているのが、伝わった。


この人が何十年も考えてきて、まだ分からないことが、ある。


そのことが、少し意外で、少し安心した。



「この畑は、誰かに渡すんですか」


自分でも、なぜその質問が出たか分からなかった。


町長は少し間を置いた。


「渡す、というのは」

「町長が引退したあとも、誰かが続けるのかなと思って」

「そうだな。誰かが続けていくだろうと思っている」

「どうやって」

「どうやって、というのは難しい質問だな」


少し考えてから、町長は言った。


「君がノートに書き続けることも、続けることの一つだよ」


何を言われているのか、すぐには分からなかった。

考えてから、少しだけ分かった気がした。



父はずっと少し離れたところに立っていた。


こちらの話に入ってこなかった。

入ってこない方がいいと思っているのか、入りたくないのかは、分からない。

ただ、そこにいた。


一度だけ目が合った。

父は特に何も言わなかった。



帰り際、もう一度だけ土を触った。


さっきと同じ感触だった。

ひんやりしていて、やわらかくて、重かった。


三年前、初めて触ったとき、何かが起きた感じがした。

はっきりした何かではない。ただ、何かが動いた気がした。


今日は、その感じはなかった。


代わりに、ここにあるものが、ここにある、という確認みたいな感覚があった。

驚きとは違う、別の何かだった。


上手く言葉にできない。

ノートに書こうとして、書けなかった。



家に帰って、ノートの表紙を見た。


「赤土のこと――なぜ赤くて、なぜここだけなのか」

「まだ分からないことが、たくさんある」


夏に書いたタイトルだ。


今日、新しいことは分かったか。

少し考えた。


分かったことと、分からないことが、両方増えた気がした。


分かったこと:においは三年前と同じだった。深い方が赤い。町長も、なぜかは分からないと思っている。


分からないこと:なぜここだけなのか。持ち出すと変わる理由。何十年後も、あの土はあそこにあるのか。


ノートの余白に書いた。


「三年ぶりに触った。ひんやりしていた。同じだった。でも、少し違った気がした。うまく言えない」



夕飯のとき、父に聞いた。


「父さんは、赤土、好き?」


父は少し考えた。


「好きとか嫌いとか、考えたことなかった」

「でも、ずっと関わってきたんでしょ」

「仕事だからな」

「仕事だから、好きじゃなくても続けてるの」

「仕事だから続けてる、じゃないな。続けたいから続けてる。仕事になったのは、その後だ」


父がそんな長く話すのは、珍しかった。


「俺も、続けたいと思う」


何を、とは言わなかった。

父も、何を、とは聞かなかった。


それでいいと思った。



夜、布団に入りながら、畑のにおいを思い出した。


まだ少し、服に残っている気がした。


三年ぶりに触った土は、三年前と同じだった。

変わっていなかった。


ただ、同じだと分かるためには、三年前に触っておく必要があった。


そう気づいたら、三年前の記憶が少しだけ大切なものになった気がした。


_______________

あとがき


いつもお読みいただきありがとうございます。



さて、最後に一つだけお願いがあります。

今日は作者の誕生日です。誕生日プレゼント代わりに★評価をいただけると、とても励みになります。よろしくお願いします。

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