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インターミッション2 「波が引いた後」


 波が来た。


 記者が来た。研究者が来た。企業の人間が来た。省庁の人間が来た。移住を希望する人間も来た。


 みんな、何かを持ち帰ろうとした。

 みんな、何かを持ち帰れなかった。


 それでも、何も起きなかったわけではない。



 記者は、記事を書いた。

 書けるものだけで、書いた。

 書けなかったものは、まだ彼女の中にある。


 研究者は、数値の不一致を抱えて帰った。

 論文は、まだ書いていない。


 企業の担当者は、報告書を出した。

 必要がないから断られた、とだけ書いた。

 それ以上の言葉が、見つからなかった。



 町は、変わらなかった。


 朝になれば、漁師が船を出す。畑に人が出る。子供が学校に行く。

 夕方になれば、みんな戻ってくる。


 夜は、静かだ。


 波が来ても、その繰り返しは変わらなかった。

 波が来たことさえ、知らない住民の方が多い。



 ただ、少しだけ変わったことがある。


 海の底で、赤みのある泥が増えた。


 漁師が、それを知っている。まだ、誰にも言っていない。


 小学生が、赤土のことをノートに書き続けている。

 タイトルの下に、「まだ分からないことが、たくさんある」と書いた。


 役場の若い職員が、言葉にできない基準を、少しずつ自分の中で育てている。


 町長の妻が、朝の電話の回数を、黙って数えている。



 波は、形を変えてまた来るだろう。

 ただ、来るたびに、この町は少しだけ自分の輪郭を知る。

 自分が何者かを、言葉にしないまま、確認する。


 それが、これまで起きたことの意味だ。



 赤土は、今日も赤い。

 昨日と同じ色だ。何十年前と同じ色だ。


 誰かが来ても、誰かが去っても、変わらない。

 変わらないものが、ここにある。


 それが、この町を、この町にしている。



 三章が始まる。


 波の後の話だ。

 引いた波が何を残したのか。

 残ったものを、誰がどう受け取るのか。




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