インターミッション2 「波が引いた後」
波が来た。
記者が来た。研究者が来た。企業の人間が来た。省庁の人間が来た。移住を希望する人間も来た。
みんな、何かを持ち帰ろうとした。
みんな、何かを持ち帰れなかった。
それでも、何も起きなかったわけではない。
◇
記者は、記事を書いた。
書けるものだけで、書いた。
書けなかったものは、まだ彼女の中にある。
研究者は、数値の不一致を抱えて帰った。
論文は、まだ書いていない。
企業の担当者は、報告書を出した。
必要がないから断られた、とだけ書いた。
それ以上の言葉が、見つからなかった。
◇
町は、変わらなかった。
朝になれば、漁師が船を出す。畑に人が出る。子供が学校に行く。
夕方になれば、みんな戻ってくる。
夜は、静かだ。
波が来ても、その繰り返しは変わらなかった。
波が来たことさえ、知らない住民の方が多い。
◇
ただ、少しだけ変わったことがある。
海の底で、赤みのある泥が増えた。
漁師が、それを知っている。まだ、誰にも言っていない。
小学生が、赤土のことをノートに書き続けている。
タイトルの下に、「まだ分からないことが、たくさんある」と書いた。
役場の若い職員が、言葉にできない基準を、少しずつ自分の中で育てている。
町長の妻が、朝の電話の回数を、黙って数えている。
◇
波は、形を変えてまた来るだろう。
ただ、来るたびに、この町は少しだけ自分の輪郭を知る。
自分が何者かを、言葉にしないまま、確認する。
それが、これまで起きたことの意味だ。
◇
赤土は、今日も赤い。
昨日と同じ色だ。何十年前と同じ色だ。
誰かが来ても、誰かが去っても、変わらない。
変わらないものが、ここにある。
それが、この町を、この町にしている。
◇
三章が始まる。
波の後の話だ。
引いた波が何を残したのか。
残ったものを、誰がどう受け取るのか。




