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赤土の畑のとなりで ―人口5000人の町に、何かがある―  作者: 泥靴


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インターミッション 「この町の、ある一日」

朝の五時、漁船が港を出る。


 エンジンの音が、まだ暗い水面に低く響く。

 それを聞いている人間は、この時間にはほとんどいない。

 波止場の端に、一人の老人が立っているだけだ。


 老人は海を見ている。

 特に何も考えていない。

 ただ、長い習慣がそこに彼を連れてくる。


 船が沖に出ると、音が遠くなる。

 波の音だけが残る。



 六時になると、町が少しずつ動き始める。


 スーパーの搬入口に、軽トラックが横付けされる。

 野菜の箱が、いくつも降ろされる。

 どこで採れたのかは、箱に書いてある。

 この町の、この土地だ。


 パン屋の煙突から、煙が出始める。

 病院の駐車場に、最初の車が入る。

 小学校の門が、用務員の手で開けられる。


 特別なことは、何も起きていない。



 八時の路線バスに、高校生が乗る。


 一番後ろの席に、女の子が座る。

 窓の外を見ている。

 赤土の畑が、朝の光の中に広がっている。


 バスが進む。

 畑が、少しずつ後ろに流れていく。

 

女の子は、それを見送るわけでもなく、ただ窓の外を見ている。



 午前中、役場に一本の電話が入る。


 移住の相談だ。


 都市部からの問い合わせが、最近増えている。

 担当者は、決まった文句で答える。


「現在、移住受け入れの枠には限りがございまして」


 相手は、少し驚いた様子で聞き返す。


「そんな町があるんですね」


 担当者は、少しだけ間を置く。


「ええ、まあ」


 それ以上は、言わない。


 昼過ぎ、畑に人が入る。


 膝をついて、土を触る。

 何かを確かめている。

 記録を取る。


 空は晴れている。

 風は、海の方から来ている。

 悪い意味を持たない風だ。



 夕方、子供たちが帰ってくる。


 ランドセルを背負って、狭い道を歩く。

 何かを話しながら、笑っている。

 何を話しているのかは、遠くて聞こえない。

 その中に、一人だけ、立ち止まる子がいる。

 

 畑の方を、少しだけ見ている。

 

 それから、また歩き始める。



 夜、町は早く静かになる。


 明かりが、一つ、また一つと消えていく。


 波止場には、誰もいない。


 赤土の畑は、暗くて見えない。

 ただ、そこにある。


 昨日も、そこにあった。

 明日も、そこにある。


 この町の、ある一日が、終わる。


インターミッションまでお読みいただき、ありがとうございます。


大きな歴史や有名な人物ではなく、名前の残らない人々の仕事や暮らしにも価値がある。


そんなことを考えながら書いています。


ここから先も、町のさまざまな人々の物語が続いていきますので、よろしければ引き続きお付き合いください。

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