血狐のレッスン①
「……はあはあ、死ぬかと思った」
急上昇からの急降下を耐えた俺は地面に立てる喜びを噛み締めていた。
狼になって四本足だから余計に、子鹿のように震える姿が間抜けに見えてそうだ。
「ここだよ」
狐面の彼に連れてこられた場所は何の変哲もない喫茶店の裏口の前だった。
「誰かに見られると面倒だから、裏口から入ろう。店にはもちろん誰もいないよ。オーナー特権で臨時休業ににしたからね」
言いながら狐面の彼は裏口を開け中に案内した。
そして、バックヤードを通り、ホールの席に座るよう促された。
「いや、この姿のままじゃ座りにくいんですけど」
「能力を解けばいいじゃん」
「それが出来たらもうしてますよ」
「……なるほど」
狐面の彼は考え込んだ後、俺の知りたい解決策を話し始めた。
「じゃあ座る前に能力について教えてあげようか」
そう言って彼は付けていた狐面を外したのだった。
「なっ、あなたは。血ノ森楓?!」
血ノ森楓、この国どころか世界中で知らない人はほぼいないある有名人だ。
有名になったきっかけは大きく分けて二つ。
一つは世界でも有数な大企業、血ノ森財閥をこの二、三年で一から作り上げ大きくした事。
もう一つは一年前、能力者の存在を世に知らしめた人物である事だ。
その時に自分も能力者である事を公言しており、世界一有名な能力者でもある。
能力は確か血液を無限に作り出せる能力で、世界各地に大量の血液を配っているのも有名な話だ。
「何で、そんな人が俺に……」
「君が能力者で且つ良い奴だからだよ」
「そんなことは——」
「あるよ。さっきの顛末を見ていれば君の人となりは大体分かる」
俺には分からない。自分が良いとか悪いとか、それ以前に何をしたいのかさえ。
「君がそう思ってなくとも俺がそう思えただけで大きな価値があるんだ」
本当に価値があるのかはこの話の先にあるのだろうか。
血ノ森さんは話を戻し、能力についての講義を始めた。
「話を戻そう。能力についての俺による特別レッスン始めようか」
「良いんですか? まだ部下なるって返事もしていないのにそんな重要そうな事を教えてしまっても」
能力について詳しい事は未だ分かっていないとされている。
血ノ森財閥でも調査中で特に情報は出ていなかったはずだ。
そんな機密情報を誘いを断る可能性のある俺に話すメリットがあるのか。
俺はそんな疑問を血ノ森さんに投げかけた。
「良いんだよ。元々、何も悪い事していない困っている能力者は保護し、今まで通りに生きていけるように援助するのが今の俺の目的の一つでもあるからね」
血ノ森さんは俺の問いかけに平然とした表情でそう答えた。
この人は能力者としても、人間としても、中々に計り知れない人物のようだ。
だが、今の話では俺以外にも真っ当な考え方を持つ能力者はいたけどスカウトしていないって事だ。
だって俺は保護と援助の前に誘われているんだから。
俺はその旨を聞くために血ノ森さんに話を聞いた。
「——では、俺へのスカウトは悪さをしていない能力者という点以外にも理由があるという事ですか?」
「ああ、ある。けど、それはあとで言うよ。今は能力についてが先だ」
しょうがない、今は体を元に戻すほうが先決だ。
「まず最初に能力の仕組みについてだ」
そうしてレッスンが始まった。
「能力、正しくは心象能力と俺が名付けたこれは人に宿る心の力を象にして行使するというものだ」
心を象にする。その結果が狼になることだなんて俺はそんな心象を持っているんだ。
でも、小さい頃に読んだ物語にこんな狼が出てきたような気がしないでもない。
話自体はあんまり覚えてないが、気高く生きるその様に憧れた記憶がうっすらとある。
俺がそんな事を考えている間にも血ノ森さんの説明は続いた。
「もっと分かりやすく原理を説明すると、心の力である心象力を各々の持つ心象に依る固有の能力に変換し、現実に顕現させるって感じだな」
「……心の力、心象力。なんとなく分かってきた気がする」
「それが分かればもう大丈夫。その心象力を出さないイメージ、自分の中に引っ込める感覚で操ってみて」
「体に流れるこの力を引っ込める感じ——」
体から溢れる見えない力——心象力を知覚し、俺はその根源へと引き戻すよう感覚でコントロールした。
すると、心象力は俺の心に戻っていき、体も元のものへと戻っていったのだった。




