表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の狼は血に濡れている。  作者: 真田遼一朗
白銀の狼は気高く吠える。
2/5

怪しい狐に誘われて

「……どう、なっているんだ。俺の体は——」


 白い毛むくじゃらに変わり果てた腕に俺は戸惑いを隠せなかった。


 おまけに何だか体がおかしい感じがしてきた。


 ついには体がふらつき始め、思わず俺は手を着いてしまった。


 そうなれば普通しゃがんだ状態になるはずなのに、俺の体は四つん這いの状態になっていた。


 妙にこの体勢の居心地が良いのでこのまま能力犯罪者に壊された車の残骸に近付く。


 目的はただ一つ。自分の今の状況を確認する為にどの車にも必ず付いているミラーを探す事だ。


 徹底的に壊していない限り全てのミラーが割れていると言う事は無いだろう。


 そう言っている間に一番近くにあった車の傍に外れたドアミラーがある事に気付いた。


 落ちているドアミラーを確認すると、運の良い事に割れていなかった。


 自分の姿を確認しようと俺はドアミラーを覗き見た。


 そこに映っていたのは驚く事に、綺麗な白い毛並みを持つ狼だった。


「これが、俺⁈」


 何と言うか、すごくモフモフしているな。


 じゃなくて、どういう事なんだこれは。


 ドアミラーの前で体を回転させ隅々まで確認したが、どこからどう見ても狼だった。


 まさかこれが能力ってもんなのか。


 でも、人間にどうやって戻るんだ。


 このまま狼の姿で公道にいたら駆除されちゃうんじゃ。


 それはまずいとあたふたしていたら突然、車だったものが飛んできた。


 俺は軽く躱すと飛ばして来た本人、生きていたあの脳筋の大男を狼がやりそうな表情で威嚇した。


「……はあはあ、まさかお前も能力者だったとはなあ」


 脳筋は吐息混じりにそんなことを言い出した。


 やっぱりこの現象は能力によるものらしい。


 けど、俺は能力について何も知らない。


 目の前の脳筋から聞き出すでもあるが、まともに会話が出来るタイプには到底思えない。


 なら、一刻も早くこの場所から逃げ去るのが得策だろう。


 と言っても逃げる為には目の前のあいつをどうにかして無力化しなきゃならなさそうだけど。


 俺も能力者らしいからある程度はやれるはず。


 やってやろうと心の中で強く思い俺は戦う決意をした。


 俺は戦う前に一応情報を引き出そうと今にも殴って来そうな脳筋に問い掛けた。


「なあ、能力って一体何なんだ?」


「そんなことも知らないのか。だが、知る必要はない。ここで俺に殺されるからだあ!」


 案の定すぐに攻撃して来た脳筋の拳を俺は華麗に避けた。


 どういう訳か自分の能力の事は全て感覚で理解できた。


 狼の体は戦闘において中々に便利なスペックをしている。


 身体能力はもちろん、動体視力や索敵能力も人間と比べ物にならない程に高い。


 これならいける。そう思ったのが間違いだった。


 その驕りが俊敏な動きに隙を生んでしまったのだ。


 着地の瞬間に叩き込まれた攻撃を俺はモロに腹に食らってしまった。


 面白いほどに後ろへ吹っ飛ぶ俺。


 狼の体でも走る激痛がダメージの大きさを物語っている。


 体はまだ動く。しかし、俺の心は今ので折れかかっていた。


 勝てる気がしない。当たり前だ。


 俺とあいつでは戦闘経験がまるで違う。


 傷付く経験など全く無い俺にとってはさっきの一撃は見える傷以上のダメージだった。


「どうした? もう終わりか? なら、さらに追い込んでやるよ!」


 追い討ちをかけるように脳筋は道路に散らばる車の残骸を交差点の四方にぶん投げ始めた。


 そして、一気に爆発させたのだった。


 交差点は火の海で囲まれ、俺の逃げる選択肢が消えた。


 助けを待つ余裕もない。


 俺はもうここで死ぬと決まったようだ。


 そう絶望し道路に這いつくばったままの俺に脳筋がゆっくりと近付いてくる。


「俺様に勝てる訳ないんだよお!!!」


 立ち上がれないまま、俺は奴の拳が向かってくるのを為す術もなく見つめるしか出来なかった。


 だが、奴の拳が俺に当たる直前、俺と奴の間に何かが降って来たのだ。


 土煙の中から現れた謎の人物は高そうな和服に身を包み、腰の辺りから五本の赤い尾を棚びかせ、顔に怪しい狐の面を付けていた。


 そして、こんな状況にも関わらずその人は変な事を言い出した。


「ねえ、君。俺の部下にならない?」






                        ◇






「良いね。やっとまともな能力者が現れたか」


 落下の数分前、京都タワー展望室の屋根上にて。


 怪しげな狐面の青年が一人、眼下の交差点で起こっている騒動——正しくは一人の青年——を眺めながらブツブツと独り言を呟いていた。


「おっと、やっぱりいきなりの実戦は厳しいかな」


 そう言いながら立ち上がり狐面の青年は軽く一歩前に進んだ。


「さあ、始めようか」


 空中に体を投げ出し、そのまま重力に任せて落下していく。


 落ちていくその姿はどこか楽しげだった。






                         ◇






「……部下? 何、言って——」


「ああ、ちょっと待って。詳しい話は後でちゃんとするから。とりあえず今は場所を変えようか」


 目の前に突如現れた狐面の人物は俺の話なんて聞かずにすらすらと言葉を並べてくる。


 今はそんな話をしている場合じゃないのに。


 なぜなら、まだあの脳筋の能力犯罪者が彼の背後にいるからだ。


「いや、それより後ろに能力犯罪者が……」


「大丈夫、大丈夫。あんなの気にしなくて良いから。君は俺の話に集中して」


 伝えても尚、彼は話を止めなかった。


 そして明確に無視され後ろでキレている脳筋も黙っている訳は無かった。


 怒りの雄叫びと共に脳筋は攻撃を放った。


「俺様を無視しやがって、死ねえ!!!」


「んー、そうだな。やっぱり話すなら静かな場所が良いな」


 至近距離から繰り出される拳を狐面の彼は軽々しく受け止めた。しかも、尻尾で。


「何っ!!!」


「よっと」


 片手間で自慢の攻撃を止められた事に驚いた次の瞬間に脳筋はぶっ飛ばされていた。


 一瞬の事だった。狐面の彼の足に五本の尾が集まり巻き付き、そのまま蹴りを放ったのだ。


 予備動作も助走もなくあの威力あの速度。


 彼がもの凄い能力者である事をこの一瞬の所作で思い知らされた。


 そんな彼が俺に興味を持つなんて一体何が目的なんだ。


「さあ、行こうか」


「行くってどこへ? 辺りは火の海だし……って、え?」


 見回すといつの間にか周りの炎が消えている。


「……なんで」


「ああ、俺がここに落ちてくる時についでに消しといたんだ。俺の力で」


「…………」


 言葉が出なかった。どうやら能力というのは俺の想像以上の存在なのかもしれない。


「それじゃ、行くよ」


「良いですけど、どこにですか?」


「行けば分かるよ」


 結局、俺は彼に付いていく事にした。まあ、元々拒否権は無かった気もするが。


 狼のままで俺は彼の後に付いていこうとしたが、彼は急に俺の体を持ち上げありえない事を言いだした。というかやり出した。


「え、ちょっと」


「しっかり捕まってて」


「えええええー!!!」


 ぶっ飛んだ事に彼は俺を抱えたまま地面を蹴り、空に飛び出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ