表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/117

第90話 「呼ぶ者」

 敗れた者ほど、危険になる。



 神殿派は追い詰められていた。



 地下拠点は摘発され。


 過激派は捕らえられ。


 民衆の支持も失いつつある。



 新王の支持は高い。


 食料は安定し。


 法は機能し。


 都市は静けさを取り戻していた。



「……終わりそうですね」


 リリアが呟く。


 エルミナが静かに首を振る。


「いいえ」


「追い詰められた思想は、最も危険です」


 セリスが低く言う。


「……合理を失う」


 ノアが笑わずに言う。


「ここからだよ」



 その夜。



 塔の地下、さらに奥。



 古い石室。


 初代時代の遺構。


 誰も使わなくなった空間。



 そこに。



 老いた神殿長と、少数の信奉者がいた。



 中央には。


 古い記録板。


 裂け目の図。


 初代王の痕跡。



「……」


 アレンの目が細くなる。



 嫌な場所だ。



 古い記録ほど、誤読される。



 神殿長は空を指し。


 裂け目の図を叩き。


 拳を握る。



「……何て?」


 リリアが聞く。


 アレンが低く答える。



「……神は沈黙していない」


「呼び方を忘れただけだ、ってな」



「うわ……」



 エルミナが静かに言う。


「初代時代の接触記録を儀式書と誤認しています」


 セリスが低く続ける。


「……危険」


 ノアが笑う。


「来たね」



 彼らは準備を始めた。



 塔の中心軸。


 かつて象徴だった場所。



 そこへ。


 火を円形に配置する。


 石板を並べる。


 複数人で同時に声を出す。



「……あれ」


 リリアが顔色を変える。


「昔の次元干渉、再現してません?」



 アレンは答えない。



 その沈黙が、答えだった。



 彼らは知らない。



 初代が到達できたのは。


 進化と偶然と積み重ねの果てだ。



 形だけ真似ても。


 普通なら、何も起きない。



 普通なら。



「……」


 アレンが空を見る。



 だが今は違う。



 境界は以前より薄い。


 交流で揺らぎ続けている。



 条件が悪い。



 新王にも報告が届いた。



 深夜の王宮。



 側近たちが慌ただしく動く。



 神殿派残党が塔を占拠。


 儀式を実施中。



「……止めますよね」


 リリアが言う。


 エルミナが静かに頷く。


「当然です」


 セリスが低く言う。


「……武力制圧」



 だが。



 新王は即答しなかった。



 塔を壊せば象徴を傷つける。


 神殿派を殉教者にする危険もある。



「……賢いですね」


 リリアが言う。


「すぐ突っ込まない」


 アレンが小さく頷く。



「……学んでる」



 新王は自ら塔へ向かった。



 兵を最小限に。


 民衆には知らせず。



 混乱を広げないためだ。



 塔内部。



 火は揺れ。


 神殿長は狂気じみた目で声を上げる。



 新王が前に出る。



 武器を向けず。


 ただ止めるよう促す。



 神殿長は笑う。



 王は偽物。


 法は鎖。


 神が真実を示す。



「……テンプレですね」


 ノアが笑う。


「黙れ」



 その瞬間。



 空気が、沈んだ。



「……っ」


 リリアが息を呑む。



 火が一斉に揺れる。


 塔の石が軋む。


 空間が微かに捻れる。



「……まずい」


 アレンが初めて即答する。



 エルミナが静かに言う。


「干渉が始まっています」


 セリスが低く続ける。


「……小規模裂け目形成」



 神殿長たちは歓喜する。



 見ろ。


 神は応えた。



 だが。



 違う。



 応えたのではない。


 こじ開けかけているだけだ。



 制御なしに。



「……新王、逃げろ」


 アレンが低く呟く。



 新王は異常を理解した。



 兵へ退避を命じる。


 民衆封鎖も指示する。



 判断が早い。



「……やっぱ優秀ですね」


 リリアが言う。



 だが。



 神殿長は退かない。



 さらに火を足し。


 さらに声を上げる。



 裂け目が、開く。



 小さい。



 だが黒い。



 今までの交流の裂け目とは違う。



 荒れている。



「……っ」


 エルミナが目を細める。


「不安定です」


 セリスが低く言う。


「……崩壊型」



 塔全体が揺れる。


 石が落ちる。


 火が走る。



 民衆は外で混乱する。



 神殿長は笑い続ける。



 神が来る。


 神が裁く。



「……」


 アレンの目が冷える。



 ここまで見守ってきた。


 彼らの選択を尊重してきた。



 だが。



 これは違う。



 世界そのものを壊す行為だ。



「……」


 リリアが小さく言う。


「……動きますか」



 沈黙。



 次の瞬間。



 アレンが一歩、前へ出た。



 空間が止まる。



 火が静止する。


 石の落下が止まる。


 裂け目の揺れも止まる。



「……っ!?」


 新王が初めて、空を見る。



 そこに。



 “本物”がいた。



 神殿長の笑顔が凍る。



 呼んだつもりの神は。



 願いを叶える存在ではなかった。



 ただ。



 世界の管理者だった。



 アレンが静かに言う。



「……呼ぶ相手、間違えたな」



――第90話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ