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第64話 「境界線」

 戦いは、長引いていた。


 最初の衝突から、どれほどの時間が経ったのか。


 この世界に“時計”はない。


 だが確実に――


 限界は近づいていた。



 疑う者たち。



 火の光の中。


 武器を手に、押し続ける。


 動きは荒いが、止まらない。


 削る。


 崩す。


 前へ。


 ただ前へ。



 信じる者たち。



 塔の影の下。


 陣形を維持し、耐え続ける。


 揃った動き。


 崩れない意思。


 だが――


 削られている。


「……きついな」


 アレンが低く呟く。


 リリアが歯を食いしばる。


「もう……限界じゃないですか」


 エルミナが静かに言う。


「防御の維持が困難です」


 セリスが続ける。


「……突破される」


 ノアが淡々と言う。


「このままだと、負けるね」



 その言葉は、正しかった。



 一体、また一体と。


 信じる側が崩れていく。


 陣形の隙間が広がる。


 そこへ、武器が入り込む。


「……っ!」


 リリアが思わず前へ出そうになる。


 だが。


 止まる。


 止める。


 自分で。


「……」


 アレンは、まだ動かない。



 その時。



 信じる側のリーダーが。


 ふらつく。



 限界。


 明らかだった。


 それでも。


 立つ。


 声を出す。


 仲間を揃える。


「……」


 エルミナが小さく呟く。


「……強いですね」


 セリスが言う。


「……だが、足りない」


 ノアが静かに続ける。


「“願うだけ”じゃ、届かない」



 疑う側のリーダーが。


 前に出る。



 武器を構える。


 狙いは――


 中央。


 リーダー。


「……やばい」


 リリアの声が震える。


「これ……決まる」


 アレンの視界。


 未来が分岐する。


 この一撃が通れば。


 信じる側は崩壊する。


 もし止まれば。


 流れが変わる。


「……」


 拳が、強く握られる。



 境界線。



 ここが。


 “介入するかどうか”の線。



 ノアが静かに言う。


「……どうする?」


 リリアが言う。


「アレン……!」


 エルミナが。


「判断を」


 セリスが。


「……」



 その瞬間。



 武器が振り下ろされる。



 時間が、伸びる。


 すべてが遅くなる。


 見える。


 完全に。



 そして――



 アレンは。



 “動いた”。



 だが。



 直接ではない。



 手を、わずかに動かす。


 空間に触れる。


「……最小でいい」



 “ズラす”。



 ほんの、わずか。



 武器の軌道が。


 ほんの数ミリ。


 ずれる。



 刃は。


 リーダーを外れる。



「……っ!?」


 リリアが息を呑む。


 エルミナが目を見開く。


「今の……」


 セリスが低く言う。


「……干渉したな」


 ノアが笑う。


「ついにやったね」



 下では。



 何も起きていない。



 ただ。


 “当たるはずだった一撃”が外れただけ。


 それだけ。


 それだけで――



 流れが変わる。



 信じる側のリーダーが。


 倒れない。


 立つ。


 声を上げる。


 全体が再び揃う。


「……押し返してる!」


 リリアが叫ぶ。


 エルミナが言う。


「再編が成功しました!」


 セリスが続ける。


「……まだ戦える」



 疑う側が、一瞬迷う。



 確実だったはずの勝利。


 それが崩れる。


 流れが読めなくなる。


「……」


 アレンは、手を下ろす。


 何事もなかったように。


「……それだけ?」


 ノアが聞く。


「それだけだ」


「もっとやればいいのに」


「ダメだ」


 アレンが言う。


「ここからは、あいつらの戦いだ」



 戦いは、続く。



 だが。


 もう違う。



 ただの押し合いではない。


 意思と意思のぶつかり合い。


 選択と選択の結果。



 やがて。



 疑う側が、退く。



 完全な敗北ではない。


 だが。


 明確な“引き”。


「……」


「……退いた」


 リリアが呟く。


 エルミナが静かに言う。


「……決着です」


 セリスが頷く。


「……今回は、防いだな」


 ノアが笑う。


「引き分けに近いけど」


 アレンが小さく息を吐く。


「……十分だ」



 下では。



 信じる側の個体たちが。


 倒れた仲間を支え。


 立ち上がらせる。


 そして。


 再び――


 空を見上げる。


「……」


 リリアが小さく言う。


「……今の」


「奇跡って思うんですかね」


 アレンは少しだけ考える。


 そして。


「……思うやつもいるだろうな」


 エルミナが言う。


「……意味は、受け手が決めます」


 セリスが一言。


「……それでいい」


 ノアが笑う。


「神っぽいことしたね」


「やめろそれ」



 境界線は、越えられた。



 だが。



 壊されてはいない。



 ほんのわずか。


 最小の干渉。


 それだけで。



 世界は、変わった。



 アレンが空を見る。


「……これでいい」



 火と祈り。


 武器と意思。



 どちらも、生き残った。



 そして――



 次は。



 さらに大きな選択が来る。



――第64話 完


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