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第65話 「奇跡の意味」

 戦いは、終わった。


 だが――


 静寂は訪れない。



 森の中央。


 信じる者たちの拠点。



 倒れた個体が、運ばれていく。


 傷を負った者。


 動けない者。


 それでも。


 彼らは崩れていない。


 むしろ――


 まとまっていた。


「……すごいですね」


 リリアが小さく呟く。


「普通なら、もっとバラバラになりそうなのに」


 エルミナが静かに言う。


「ええ」


「損失を“意味”として受け止めています」


 セリスが低く言う。


「……無駄ではないと認識している」


 ノアが笑う。


「信仰の強みだね」



 その時。



 中央のリーダーが、ゆっくりと立ち上がる。



 傷つきながらも。


 倒れず。


 空を見上げる。


「……」


 そして。


 声を発する。


 長く。


 強く。


 だが――


 今までとは違う。


 そこにあるのは。



 “確信”。



「……あ」


 リリアが息を呑む。


「変わった」


 エルミナが言う。


「ええ」


「これは……」


 セリスが続ける。


「……“応えられた”と認識している」


 ノアが小さく笑う。


「来たね」


 アレンは何も言わない。



 下では。



 個体たちが。


 次々と膝をつく。


 頭を下げる。


 そして。


 同じ音を繰り返す。


 以前よりも強く。


 揃って。


「……完全に確信してますね」


 リリアが言う。


 エルミナが静かに続ける。


「“見守られている”と」


 セリスが低く言う。


「……信仰が一段階上がった」


 ノアがアレンを見る。


「ねぇ」


「何だ」


「どう思う?」


 アレンは少しだけ考える。


 そして。


「……そうなるだろうな」


「否定しないんだ」


「する意味がない」


 短く答える。



 一方で。



 森の外縁。


 疑う者たちの拠点。



 空気は、まるで違っていた。


 静か。


 だが重い。


「……こっちも変わってる」


 リリアが言う。


 エルミナが頷く。


「ええ」


「明らかに様子が違います」


 セリスが低く言う。


「……敗北ではないが」


「納得していない」


 ノアが言う。


「そりゃそうだよね」


「勝てるはずだったのに外れたんだから」



 疑う側のリーダーが。


 静かに立っている。



 視線は、空へ。


 だが――


 その目は。


 以前とは違う。


「……」


「……怖がってない」


 リリアが呟く。


 エルミナが言う。


「ええ」


「恐怖ではありません」


 セリスが低く言う。


「……疑念だ」


 ノアが笑う。


「いいね」


 アレンがその視線を受け止める。


 ほんの一瞬。


 確実に。


 “見られている”。


「……気づいたか」


 小さく呟く。



 疑う者は。



 考える。



 なぜ外れたのか。


 なぜ届かなかったのか。


 偶然か。


 それとも――



 “何かがあったのか”。



「……」


 リリアが言う。


「これ、まずくないですか?」


 エルミナが静かに続ける。


「ええ」


「信仰ではなく」


「検証が始まります」


 セリスが低く言う。


「……観測対象になる」


 ノアが笑う。


「神が研究される側になるね」


「やめろ」


 アレンが短く返す。



 その時。



 疑う側のリーダーが動く。



 地面に、線を引く。


 ゆっくりと。


 何度も。


「……?」


 リリアが首をかしげる。


 エルミナが目を細める。


「……記録です」


 セリスが言う。


「……再現しようとしている」


 ノアが楽しそうに言う。


「いいね」


「完全に科学の始まり」



 彼らは。



 “奇跡”を。



 否定しない。



 だが。



 “理解しようとする”。



「……」


 アレンが小さく息を吐く。


「面白くなってきたな」


 リリアが苦笑する。


「いや、笑い事じゃないですよこれ」


 エルミナが静かに言う。


「ですが」


「これが進化です」


 セリスが一言。


「……止める理由はない」


 ノアがアレンを見る。


「ねぇ」


「何だ」


「これ」


「どこまで行くと思う?」


 アレンは、空を見る。


 信じる者たち。


 疑う者たち。


 それぞれの道。


 それぞれの答え。


 そして――


「……ぶつかるな」


「また?」


「次はもっとデカい」


 ノアが笑う。


「いいね」


「楽しみ」


「だからそれやめろ」



 下では。



 信仰が強まり。


 疑念が深まる。



 同じ出来事。


 同じ結果。


 だが。



 意味は、分かれる。



 それが。



 “世界”だ。



 アレンが静かに呟く。


「……これでいい」



 奇跡は。



 答えではない。



 問いを生むものだ。



 そして――



 その問いが。



 世界を進める。



――第65話 完


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