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第63話 「衝突」

 空気が、裂けていた。


 森の境界。


 火の光と、塔の影がぶつかる場所。


 そこに――


 二つの意思が対峙する。


 疑う者たち。


 火を背にし、武器を握る。


 信じる者たち。


 塔を背にし、祈りを揃える。


「……」


 誰も動かない。


 だが。


 すでに始まっている。


「……やばいですね、これ」


 リリアが小さく呟く。


 いつもの軽さはない。


 ただ、張り詰めた空気だけがある。


 エルミナが静かに言う。


「ええ……これは、不可避です」


 セリスが低く続ける。


「……引き返せない段階」


 ノアは腕を組み、少し楽しそうにすら見える表情で呟いた。


「来たね、本番」


 アレンは何も言わない。


 ただ、見ている。



 最初に動いたのは――


 疑う側だった。



 一体が前へ出る。


 武器を構える。


 鋭く削られた石の刃。


 未熟だが、それでも“殺すための形”を持ったもの。


「……」


 その個体が、地面を叩く。


 低い音。


 仲間へ向けた合図。


 次の瞬間。



 突撃。



「っ……!」


 リリアが息を呑む。


 速い。


 これまでの小競り合いとは違う。


 明確な“攻撃意志”。


 対する信じる側は。


 逃げない。


 散らない。


 ただ――



 “揃う”。



「……!」


 エルミナが目を見開く。


 個体たちが、一斉に同じ動きを取る。


 足を揃え。


 体勢を低くし。


 腕を前へ。


「……防御陣形」


 セリスが呟く。


 ノアが笑う。


「すごいね」


「訓練してないのにここまで揃うんだ」


 衝突。


 石の刃が振り下ろされる。


 だが――


 受け止める。


 複数の個体が重なり、衝撃を分散する。


「……っ!」


「耐えた……!」


 リリアが叫ぶ。


 アレンが静かに言う。


「力じゃない」


「形だな」



 疑う側が、すぐに動きを変える。



 正面突破が通じない。


 なら――


 回り込む。


 側面へ。


 背後へ。


 個体が分散し、角度を変える。


「……連携してる」


 エルミナが言う。


 セリスが頷く。


「……役割分担」


 ノアが楽しそうに言う。


「いいね」


「完全に戦術」


 だが。


 信じる側も、崩れない。


 中央のリーダーが声を発する。


 短く、鋭く。


 全体に響く。


 その瞬間。



 動きが変わる。



 陣形が再編される。


 側面に対して厚みを増し、背後を塞ぐ。


「……即時対応……!」


 リリアが驚く。


 エルミナが言う。


「統率の強さです」


 セリスが低く言う。


「……個の差を、全で埋めている」



 だが。



 限界はある。



 一体が、崩れる。


 押し込まれる。


 防御の隙間に、刃が入り込む。


「……っ!」


 リリアが拳を握る。


 その個体が、倒れる。


 初めて。


 明確な“戦闘による損失”。


 エルミナが目を伏せる。


「……」


 セリスが低く言う。


「……始まったな」


 ノアが呟く。


「ここからだよ」



 疑う側が押し始める。



 武器の差。


 それは明確だった。


 一撃の重さ。


 届く距離。


 削る力。


 すべてにおいて優位。


「……やっぱり武器強いですね」


 リリアが苦く言う。


 アレンは答えない。


 ただ見ている。



 その時。



 信じる側に変化が起きる。



 中央のリーダーが。


 ゆっくりと、空を見上げる。


「……」


 そして。


 手を上げる。


 声を発する。


 今までで最も強く。


 最も長く。


 最も――


 “願いに近い音”。


「……来た」


 ノアが小さく呟く。


 個体たちが。


 その声に応えるように。


 動きを止める。


 一瞬。


 完全な静止。


 疑う側が、戸惑う。


「……?」


 リリアが息を呑む。


 次の瞬間。



 動き出す。



 だが。


 さっきまでとは違う。


 揃い方が違う。


 踏み込みが深い。


 押し返す力が強い。


「……っ!?」


「押し返してる!?」


 エルミナが驚く。


 セリスが言う。


「……出力が上がっている」


 ノアが笑う。


「気合いだね」


「それもある」


 アレンが静かに言う。


「でもそれだけじゃない」


「え?」


「“意味”が乗ってる」



 信じることで。



 動きに“理由”が生まれる。



 ただの反応ではない。


 選択された行動。


 それが、力になる。


「……すご」


 リリアが呟く。


 だが。


 それでも――



 武器の差は消えない。



 再び押される。


 削られる。


 崩れる。


 限界が近づく。


「……これ」


 リリアが震える声で言う。


「まずくないですか?」


 エルミナも、迷いを隠せない。


「……介入を検討すべきです」


 セリスが低く言う。


「……このままでは壊れる」


 ノアがアレンを見る。


「どうする?」



 全員の視線が集まる。



 アレンは。


 何も言わない。


 ただ――


 戦場を見る。


 倒れる個体。


 踏みとどまる個体。


 守ろうとする者。


 押し切ろうとする者。


「……」


 拳が、わずかに握られる。



 初めて。



 “迷い”が生まれる。



「……」


 もし今、手を出せば。


 止まる。


 すべてが。


 だが。


 その代わりに。


 この先は、なくなる。


「……」


 リリアの声。


「……アレン」


 エルミナの視線。


「……判断を」


 セリスの言葉。


 ノアの静かな問い。


「……ねぇ」



 その瞬間。



 一体の個体が。



 倒れた仲間を――



 “守るために立つ”。



 武器を持たず。


 ただ。


 前に出る。


「……!」


 リリアが息を呑む。


 その個体は。


 震えながらも。


 逃げない。


 ただ。


 立つ。


 そして――


 疑う側の刃を、受け止める。


「……っ!」


 崩れる。


 だが。


 その間に。


 後ろの個体が、動く。


 守られる。


 繋がる。



 意思が、連鎖する。



「……」


 アレンが小さく息を吐く。


 そして。


 言う。



「……まだだ」



 手を出さない。



「……見てる」


 リリアが小さく頷く。


 エルミナが目を閉じる。


「……はい」


 セリスが一言。


「……継続」


 ノアが、少しだけ笑った。


「……ほんと」


「最後まで見届けるんだね」


 アレンは答えない。


 ただ、前を見ている。



 火が揺れる。



 祈りが響く。



 刃が交わる。



 そして。



 世界は――



 選び続ける。



――第63話 完


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