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第49話 「読めない」

 未定義領域――深層。


 そこは、今までと明確に違っていた。


「……静かすぎる」


 リリアが呟く。


 音がない。


 気配もない。


 だが。


 確実に“何かがいる”。


「さっきまでと違いますね」


 エルミナが警戒を強める。


「存在が“感じられない”のに、消えているわけでもない……」


 セリスが低く言う。


「……完全な未定義」


 ノアも珍しく表情を引き締めていた。


「ここ」


「ほんとに危ないよ」


 アレンは前を見たまま言う。


「……いいね」


「やっと来たな」


 だが、その笑みはいつもより僅かに薄い。


 視る。


 だが――


「……何も出ない」



【認識不可】

原因:未定義深層



「……」


「初めてだな」


 アレンが小さく呟く。


「完全に読めない」


 その瞬間。



 “何かが起きた”。



 ノアの姿が消える。


「……は?」


「ノア!?」


 リリアが叫ぶ。


 だが。


 痕跡がない。


 存在の“跡”すらない。


「……消された……?」


 エルミナが震える声で言う。


 セリスが歯を食いしばる。


「……違う」


「“最初からいなかったことにされた”」


 アレンが静かに言う。


「……やばいなこれ」


 だが。


 次の瞬間。



 アレンの意識が途切れる。



「――」


 何もない。


 自分が何かも分からない。


 思考も。


 感覚も。


 すべてが“未定義”。


「……」


 だが。


 ほんのわずかに。


 “自分”が残る。


「……そうか」


「これ」


「定義されてないんじゃない」


「“全部外されてる”」


 理解する。


 なら――


「戻す」



 “自分”を定義する。



 意識が戻る。


 視界が戻る。


 存在が再構築される。


「……っ!」


 リリアが息を呑む。


「戻った……!?」


「……今の」


 エルミナが震える。


「完全に消えてました……!」


 セリスが言う。


「……危険度が桁違いだ」


 アレンは周囲を見渡す。


 だが。


 やはり見えない。


「……見えないなら」


「引きずり出す」


 手を伸ばす。


 空間に触れる。


「ここにいるだろ」



 定義を強制する。



 だが――


 何も起きない。


「……?」


「効いてない?」


 リリアが驚く。


 ノアの声が響く。


「――無理だよ」


「っ!?」


 空間の奥。


 ノアがいた。


 だが。


 輪郭が不安定。


「……ノア」


「無事か」


「まぁね」


 だがその表情は真剣だった。


「これ」


「定義の外側ですらない」


「……?」


「“定義そのものを拒否する領域”」


 エルミナが息を呑む。


「……そんなものが……」


 セリスが低く言う。


「……理論外だ」


 アレンが笑う。


「いいね」


「じゃあどうする」


 ノアが言う。


「普通は無理」


「ここで終わり」


「でも」


「君は違うでしょ?」


 アレンは一瞬だけ考える。


 そして。


「……なるほどな」


 手を下ろす。


「定義できないなら」


「別のやり方だ」


「……何するんですか?」


 リリアが聞く。


 アレンが言う。


「“決めない”」


「……は?」


「定義しない」


「干渉しない」


「ただ――」


 目を閉じる。


「そこにいると認める」


 その瞬間。



 “それ”が見えた。



 形はない。


 だが確実に存在する。



【???】

状態:未定義拒否

危険度:測定不能



「……見えた」


 アレンが呟く。


 ノアが驚く。


「……は?」


「それできるの?」


 アレンが笑う。


「理屈じゃない」


「認識だ」


 その瞬間。


 “それ”が動く。


 いや。


 “結果”が発生する。


 アレンの体が消えかける。


「っ……!」


 だが。


「効かない」


 踏みとどまる。


「もう認識してるからな」


 手を伸ばす。


 だが触れない。


「……触れないか」


「なら」


「ここまでだな」


 静かに言う。


「お前」


「“何もしない存在”だろ」


 “それ”が揺らぐ。


「……当たりか」


「なら」


「終わりだ」



 “何もしない”を固定する。



 その瞬間。


 “それ”は動かなくなる。


 完全停止。


「……」


「……」


「……何今の」


 リリアが呟く。


 エルミナが言う。


「定義していないのに……制御した……?」


 セリスが低く言う。


「……もはや意味が分からん」


 ノアが笑う。


「……ほんと」


「バグ」


 アレンが肩をすくめる。


「まぁな」


「でも」


 前を見る。


 さらに奥。



【未定義深層:核心】

状態:未定義

危険度:???



「……まだある」


 ノアがため息をつく。


「……終わらないね」


「終わらせる気ないからな」


 三人が笑う。


「今さらです」


「ええ」


「当然だ」



 だが。



 次は。



 本当に“最後”が待っている。



――第49話 完


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