第33話 「向こう側への扉」
夜。
遺跡の外。
風が静かに吹いていた。
「……」
アレンは一人、空を見上げる。
だが。
もう“ただの空”には見えない。
その奥。
さらに奥。
“層”がある。
「……見えてるな」
小さく呟く。
鑑定を深く。
さらに深く。
⸻
【観測領域】
状態:接触可能
干渉:限定許可
⸻
「……許可?」
誰がだ。
その疑問に答えるように――
空間が、微かに揺れた。
「っ……!」
反射的に構える。
だが。
敵意はない。
ただ。
“見られている”。
「……来たか」
アレンが低く言う。
その時。
「アレン」
声。
振り向く。
リリアとエルミナ。
そしてセリス。
「やっぱりここにいましたね」
「……寝てろよ」
「無理です」
即答。
エルミナも頷く。
「あなたが一人で動く方が問題です」
「……」
正論すぎて何も言えない。
セリスが空を見上げる。
「……何かいるな」
「いる」
アレンは頷いた。
「向こう側」
その瞬間。
空間が裂けた。
音もなく。
静かに。
そして――
“それ”が現れた。
人の形。
だが。
輪郭が曖昧。
光のようで。
影のようで。
「……」
全員が息を呑む。
アレンの視界が反応する。
⸻
【上位観測存在】
分類:観測者
状態:干渉体
危険度:不明
⸻
「……本体じゃないな」
アレンが呟く。
「それでも」
「十分すぎる」
“それ”が口を開いた。
「……認識した」
声は静か。
だが。
重い。
「お前が」
「異常個体か」
リリアが眉をひそめる。
「……失礼ですね」
エルミナも低く言う。
「人を物のように」
だが。
“それ”は無視した。
「観測結果」
「更新」
「この世界において」
「規格外の存在を確認」
「……」
アレンは一歩前に出る。
「お前ら」
「何が目的だ」
「管理」
即答だった。
「世界の維持」
「選別」
「最適化」
「……ふざけんな」
アレンの声が低くなる。
「勝手に決めんな」
「未熟な個体に判断は不可能」
淡々とした声。
「だから我々が行う」
「……」
リリアが剣を構える。
「斬っていいですか」
「待て」
アレンが止める。
そして。
“それ”を見据える。
「……一つ聞く」
「許可」
「この世界」
「消すつもりか?」
一瞬の沈黙。
そして。
「必要なら」
空気が凍る。
エルミナが息を呑む。
「……本気で言っているのですか」
「合理的判断」
「……」
セリスが剣を握る。
「ならば敵だ」
「同意」
“それ”が言う。
「排除対象」
空間が歪む。
圧が降りる。
だが。
アレンは動かない。
「……いい」
静かに言う。
「来い」
その瞬間。
空気が震えた。
だが――
“それ”は動かなかった。
「……?」
リリアが首を傾げる。
「来ない?」
「……いや」
アレンが目を細める。
「試してる」
「何を?」
「俺を」
“それ”が言う。
「観測完了」
「現段階では」
「排除コスト高」
「……」
「よって」
「保留」
その言葉と同時に。
存在が薄れていく。
「待て」
アレンが手を伸ばす。
だが。
届かない。
「次の段階で」
「再評価する」
それだけ言って。
完全に消えた。
⸻
静寂。
⸻
「……」
「……」
「……何あれ」
リリアが呟く。
「ラスボス候補ですね」
エルミナが言う。
「間違いなく」
セリスが低く言う。
「完全に上位だ」
アレンは空を見上げたまま言った。
「……確定したな」
「何がです?」
「敵」
短い言葉。
だが。
はっきりした。
「行くぞ」
アレンが振り向く。
「どこに?」
「向こう側」
三人が一瞬止まる。
そして。
笑った。
「当然です」
リリア。
「ついていきます」
エルミナ。
「最後までだ」
セリス。
完全一致。
「……」
「……」
「……マジか」
「マジです」
「マジですね」
「マジだ」
アレンは苦笑した。
だが。
心は軽い。
「……じゃあ」
「全部見に行くか」
そして。
物語はついに。
“世界の外側”へ。




