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第32話 「価値支配」

 空間が軋む。


 見えないはずの“何か”が、形を持ち始めていた。


「……」


 アレンは静かに立つ。


 目の前には――


 第零班の上位個体。


 だがもう、それは“人間”ではない。


「……興味深い」


 男が言う。


「ここまで干渉してくるとは」


「干渉じゃない」


 アレンは答える。


「理解だ」


「そして」


「上書き」


 その瞬間。


 空気が震えた。


「……」


 リリアが息を呑む。


「これ……」


 エルミナも目を見開く。


「領域が……変わっている……」


 セリスが低く言う。


「……支配しているのか」


 アレンの周囲。


 わずかに空間が歪んでいる。


 だがそれは異界の歪みではない。


 “制御された歪み”。



【領域干渉】

状態:安定

範囲:限定展開

効果:価値制御



「……なるほど」


 男が笑う。


「そこまで到達したか」


「だが」


「まだ浅い」


 踏み込む。


 一瞬で距離が詰まる。


 拳。


 直撃コース。


 だが――


「……遅い」


 アレンが言った。


 空間がわずかにズレる。


 拳が逸れる。


「なに……?」


「価値が低い」


「だから届かない」


 アレンは静かに言う。


 そして。


 手を伸ばす。


 今度は。


 逃がさない。


「触れる」


 男の体に。


 直接。



 接続。


 構造。


 価値。


 すべてが流れ込む。



「……見える」


 アレンの視界が開く。


 完全に。


 深く。


 奥まで。


 観測者。


 無数の存在。


 そして。


 その中心。


 “意思”。


「……お前ら」


「管理者気取りか」


 現実へ戻る。


 男がわずかに歪む。


「……そこまで見たか」


「十分だ」


 アレンは笑った。


「だから」


「終わりにする」


「……できると思うか?」


「できる」


 即答。


 その瞬間。


 領域が広がる。



 価値が、変わる。



 男の体が揺らぐ。


「っ……!」


「何をした……!」


「簡単だ」


 アレンは言った。


「お前の価値」


「下げた」


「……!」


 男の動きが鈍る。


 明らかに。


 弱くなっている。


「ありえない……!」


「あるんだよ」


 アレンは一歩踏み出す。


「見えてるからな」


 そして。


 もう一度。


 触れる。


「切断」



 パキッ。



 音が響く。


 接続が砕ける。


 男の体が崩れる。


「……」


「……見事だ」


 最後にそう言って。


 完全に消滅した。



 静寂。



 空気が戻る。


 歪みが消える。


 リリアがその場に座り込む。


「……終わった……?」


「終わったな」


 アレンが答える。


 だが。


 その瞬間。


 力が抜ける。


「っ……」


 倒れる。


 だが――


 今度は。


 二人同時に。


「……!」


「アレン!」


 リリアとエルミナ。


 左右から抱き止める。


 完全密着。


 顔が近い。


 息がかかる距離。


「……」


「……」


「……近い」


「今それ言います?」


 リリアが涙目で笑う。


「死ぬかと思いましたよ……」


 エルミナも小さく言う。


「本当に……無事でよかった……」


 その声は震えていた。


 アレンは少しだけ目を閉じる。


「……悪い」


「謝らなくていいです」


「同意です」


 そして。


 少しだけ。


 リリアが顔を寄せる。


「……次は」


「一人で無茶しないでください」


「……善処する」


「信用できません」


「だろうな」


 エルミナも言う。


「ですが」


「それでも」


「ついていきます」


 セリスが一歩近づく。


「当然だ」


「ここまで来た以上」


「最後までだ」


 アレンは苦笑した。


「……逃げ場ないな」


「ありません」


 リリアが即答。


「ありませんね」


 エルミナも続く。


「ないな」


 セリスも頷く。


 完全一致。


「……」


「……」


「……まぁいいか」


 アレンは小さく笑った。



 その時。


 視界に再び表示が浮かぶ。



【観測領域】

状態:認識済

次段階:干渉可能



「……」


 アレンは空を見る。


 そして。


 呟く。


「次は」


「向こう側だな」



 物語は。


 ついに。


 “世界の外側”へ。


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