第31話 「上位の意思」
遺跡の奥。
静寂が戻ったはずの空間に――
再び、異質な気配が現れた。
「……」
アレンがゆっくりと顔を上げる。
「まだいるな」
「え?」
リリアが周囲を見渡す。
「もう終わったんじゃ……」
「いや」
アレンは目を細めた。
「さっきのとは“質”が違う」
空気が重くなる。
セリスが剣を握る。
「……来るか」
その瞬間。
空間が、音もなく歪んだ。
そして――
一人の男が現れた。
黒ではない。
白い装束。
整った姿。
だが。
その“中身”が異常だった。
「……」
アレンの視界が反応する。
⸻
【不明存在】
識別:第零班 上位個体
状態:安定接続
危険度:極高
⸻
「……なるほど」
アレンが呟く。
「これが本体側か」
男が微笑む。
「さすがだ」
「理解が早い」
「褒めても何も出ねぇぞ」
アレンは肩をすくめた。
「名乗る必要はない」
男は静かに言う。
「だが一つだけ教えてやろう」
「我々は」
「“選別する側”だ」
リリアが眉をひそめる。
「……まだ言うんですかそれ」
エルミナが低く言う。
「その思想は危険です」
セリスが剣を向ける。
「ここで止める」
男は軽く首を傾げた。
「止める?」
「面白い」
そして。
一歩踏み出す。
その瞬間。
空気が変わった。
圧。
重力のような何か。
「っ……!」
リリアが歯を食いしばる。
「これ……さっきとレベル違う……!」
エルミナが魔力を展開する。
「安定している……異界との接続が完全に……!」
セリスが一歩前に出る。
「私が――」
「待て」
アレンが止めた。
「……」
「こいつ」
「俺がやる」
「一人で?」
リリアが聞く。
「いや」
アレンは小さく笑った。
「“全部”使う」
⸻
視界が変わる。
深く。
さらに深く。
表面ではなく。
“根本”。
⸻
【上位個体】
構造:人間+異界融合
接続:完全
価値:高
弱点:干渉可能
⸻
「……見えた」
アレンが一歩踏み出す。
男がわずかに目を細める。
「その目」
「面白いな」
「お前」
「何を見ている?」
「お前の“価値”」
アレンは即答した。
「……」
男の表情が、わずかに変わる。
「なるほど」
「そこまで到達したか」
「なら」
「話は早い」
男が手を上げる。
空間が歪む。
直接干渉。
圧が一気に増す。
「っ……!」
リリアが膝をつく。
「くっ……!」
エルミナも耐える。
セリスが前に出るが――
「来るな」
アレンが言う。
「これは俺の戦いだ」
静かに。
だが確実に。
止める。
「……分かりました」
エルミナが頷く。
「信じます」
リリアも笑う。
「任せました」
セリスも一言。
「負けるな」
アレンは小さく息を吐いた。
「任せろ」
⸻
踏み込む。
男との距離が縮まる。
圧が増す。
だが。
「……効かないな」
「なに?」
男が初めて反応する。
「価値が違う」
アレンは言った。
「お前」
「安定してるけど」
「“外部依存”だ」
「……」
「俺は違う」
「内側から見てる」
そして。
手を伸ばす。
男の前へ。
「……触れるつもりか」
「そうだ」
そのまま。
触れる。
⸻
瞬間。
意識が深く潜る。
⸻
見える。
構造。
接続。
そして。
その先。
観測者。
無数の“目”。
そして。
さらに奥。
巨大な意思。
「……」
アレンは理解する。
こいつら。
ただの侵略者じゃない。
管理者だ。
選別者。
世界を“調整”する存在。
「……ふざけんな」
アレンは呟いた。
「勝手に決めんな」
⸻
現実に戻る。
男の表情が変わる。
「……何を見た」
「全部じゃない」
「でも十分だ」
アレンは笑った。
「お前ら」
「消す」
「……できると思うか?」
「できる」
即答だった。
そして。
手を握る。
接続。
価値。
構造。
すべてを――
「掴む」
⸻
空気が震える。
世界が軋む。
リリアが呟く。
「……やばい」
エルミナも息を呑む。
「空間が……歪んでる……」
セリスが低く言う。
「……次の段階に入ったな」
アレンの目が光る。
「これが」
「“真価の先”だ」
⸻
戦いは。
新たな領域へ。




