第26話 「向こう側の輪郭」
戦いの後。
王都には、奇妙な静けさが戻っていた。
人々はざわめいている。
だがそれは恐怖ではなく――
安堵と、興奮。
「助かった……」
「さっきの、何だったんだ……」
「王都が守られた……!」
声が広がる。
そして、その中心には――
「……また注目されてるな」
アレンはぼそりと呟いた。
「当然です」
リリアが腕を絡めてくる。
もはや自然な動作。
「あなたが全部止めたんですから」
「全部じゃない」
「ほぼ全部です」
エルミナも頷く。
「否定はできませんね」
そして少しだけ距離を詰める。
控えめだが確実に近い。
「……」
「……」
「また挟むのか」
「流れです」
「違う」
だがもう、突っ込む気力も薄れていた。
⸻
王城。
会議室。
重い空気。
王、レイヴン、セリス、そしてアレンたち。
「まず」
王が口を開いた。
「今回の戦闘」
「王都は守られた」
「功績は大きい」
短く、だが重い。
アレンは軽く頷いた。
「問題はその先だな」
「うむ」
王も同意する。
「“異界”」
その単語が出た瞬間。
空気が変わった。
「……あれが何なのか」
エルミナが静かに言う。
「分かっていることは少ない」
レイヴンが続ける。
「だが一つ確定した」
「我々の世界と、別の“領域”が接続されている」
「しかも意図的に」
アレンが腕を組む。
「侵食って言ってたな」
「そうだ」
セリスが言う。
「ただの侵入ではない」
「書き換えだ」
アレンは目を細めた。
思い出す。
あの核。
あの構造。
「……あいつら」
「こっちのルールに干渉してる」
「その通りだ」
王が頷く。
「そして問題は」
一拍。
「“なぜ今なのか”だ」
沈黙。
誰も答えを持たない。
その時。
アレンの視界に、微かな情報が浮かんだ。
⸻
【異界接続】
状態:断続的維持
深層:未観測
⸻
「……まだ奥があるな」
「奥?」
リリアが聞く。
「表面しか見えてない」
「本体はもっと深い」
エルミナが息を呑む。
「……では」
「これ以上の存在が?」
「いる」
即答だった。
空気が重くなる。
セリスが剣に手をかける。
「ならば叩く」
「簡単に言うな」
アレンが苦笑する。
「まずは場所特定だ」
その時。
レイヴンが一枚の資料を出した。
「すでに動いている」
「え?」
「王都外周」
「旧遺跡群」
「そこで異常反応が確認された」
「……やっぱり遺跡か」
アレンは呟く。
「繋がってるな」
「可能性は高い」
王が言う。
「よって次の任務だ」
「その遺跡を調査し」
「原因を突き止めよ」
シンプル。
だが核心。
「了解」
アレンは即答した。
リリアが笑う。
「行きましょう」
エルミナも頷く。
「当然です」
セリスも言う。
「護衛として同行する」
完全に固定メンバーだった。
⸻
会議後。
廊下。
人が少ない場所。
少しだけ、空気が緩む。
「……疲れた」
アレンが壁に寄りかかる。
その瞬間。
ぐいっ。
リリアが寄る。
「ちょっと」
「休憩です」
「完全にくっついてる」
「仕様です」
もう否定しない。
エルミナも少し迷ってから。
そっと反対側に寄る。
「……こちらも」
「増やすな」
だが。
どちらも離れない。
距離が近い。
呼吸が混ざる。
「……なぁ」
「はい?」
「なんですか?」
「これ、いつまで続くんだ?」
「ずっとです」
「ずっとですね」
即答。
しかも一致。
「……マジか」
アレンは苦笑した。
だが。
嫌ではない。
むしろ。
落ち着く。
「……まぁいいか」
小さく呟く。
その時。
ふと、エルミナが真面目な顔で言った。
「アレン」
「ん?」
「あなた」
「どこまで見えているんですか?」
「……」
少し考える。
そして。
正直に言った。
「まだ半分くらい」
「え……?」
「本気出せばもっと見えると思う」
沈黙。
リリアが笑う。
「やっぱり化け物ですね」
「やめろ」
エルミナも静かに言う。
「……頼もしいです」
その言葉は、少しだけ柔らかかった。
⸻
その夜。
アレンは一人、外に出た。
空を見る。
星。
だが。
その奥に、何かを感じる。
「……向こう側、か」
静かに呟く。
そして。
鑑定を発動する。
さらに深く。
さらに奥へ。
すると――
一瞬だけ。
“何か”が見えた。
巨大な構造。
世界の外側。
そして。
それを“見ている”存在。
「……」
目を閉じる。
呼吸を整える。
「……面白くなってきた」
小さく笑った。
そして。
次の戦いへ。
物語はさらに深く。
“世界の真価”へと進んでいく。




