第18話 「侵食の核」
王都の中心部へ向かう道は、明らかに空気が違っていた。
人通りはある。
だが、どこか沈んでいる。
「……感じるか?」
アレンが小さく言った。
「ええ」
エルミナが頷く。
「魔力が……歪んでいる」
「正確には」
アレンは目を細めた。
「侵食されてる」
リリアが腕を組む。
「見た目は普通なのに厄介ですね」
「それが一番危ない」
その時。
ぐいっ。
また腕を絡められる。
「……」
「……」
「無意識です」
「絶対嘘」
だが。
その距離が、妙に安心感を与えるのも事実だった。
一方で。
エルミナも静かに近づく。
完全に自然な動作。
気づけば、また挟まれている。
「……」
「……」
「挟むな」
「必要です」
「必要ありません」
だが。
その軽いやり取りの裏で。
アレンの意識は深く潜っていた。
鑑定。
さらに深く。
⸻
【王都中枢区域】
状態:侵食進行
中心点:地下
危険度:高
⸻
「地下だな」
「地下?」
リリアが聞く。
「この街の下にある」
「源みたいなの」
エルミナの表情が変わる。
「……封印施設?」
「その可能性高い」
レイヴンが言った。
「案内する」
⸻
辿り着いたのは、王城の一角。
厳重な警備。
騎士たちが並ぶ。
「ここから先は通常立ち入り禁止だ」
レイヴンが通す。
扉が開く。
中は暗い階段。
地下へ続いている。
「……嫌な感じ」
リリアが呟く。
「正解」
アレンが答える。
「かなりヤバい」
⸻
地下へ。
一歩降りるごとに、空気が重くなる。
魔力が濃い。
そして。
歪んでいる。
「……これ」
エルミナが顔をしかめる。
「長時間いたら影響受けます」
「すでに受けてる」
アレンが言う。
「この空間自体が汚染されてる」
リリアが剣を握る。
「早く片付けましょう」
「そうだな」
⸻
最下層。
巨大な空間。
中央に――
黒い塊。
脈打っている。
まるで生きているように。
「……何あれ」
リリアが低く言う。
アレンの視界が反応する。
⸻
【侵食核】
性質:不明(外界由来)
機能:魔力汚染・拡散
状態:活性化
⸻
「……原因だな」
「これが?」
「これが街を蝕んでる」
エルミナが息を呑む。
「破壊すれば止まる?」
「分からない」
「でもやるしかない」
その瞬間。
核が動いた。
ドクン。
空気が震える。
「来る!」
黒い影が溢れる。
複数。
さっきのやつより濃い。
「数多いぞ!」
「全部潰す!」
リリアが突っ込む。
だが。
「硬い……!」
手応えが違う。
エルミナが魔法を放つ。
だが削りきれない。
「弱点!」
アレンが叫ぶ。
鑑定をさらに深く。
表面ではなく。
核を見る。
⸻
【弱点:中心核(連結部)】
⸻
「繋がってる!」
「全部あの核と!」
「本体叩けば終わる!」
「了解!」
リリアが方向転換。
一直線に核へ。
影が遮る。
だが。
アレンが動く。
ナイフを投げる。
正確に。
連結部へ。
ブレる。
一瞬、動きが止まる。
「今!」
エルミナが魔力を集中。
「――貫け」
光が走る。
道が開く。
リリアが踏み込む。
「はあああ!!」
全力の一撃。
核へ。
直撃。
ドクン――
そして。
亀裂。
だが。
壊れない。
「足りない!」
その瞬間。
アレンの手の中の神器が光る。
視界が変わる。
さらに奥。
本質のさらに奥。
「……見えた」
「え?」
「これ」
「壊すんじゃない」
「え?」
「制御だ」
アレンは核に触れた。
「ちょっと!?」
リリアが叫ぶ。
「危ない!」
だが。
手を離さない。
情報が流れ込む。
構造。
仕組み。
侵食の原理。
「……なるほどな」
アレンは笑った。
「これ」
「“向こう側”と繋がってる」
空気が凍る。
「向こう側……?」
エルミナが呟く。
「つまり」
アレンは言った。
「これ、まだ序章だ」
その瞬間。
核が暴走した。
光が溢れる。
「っ!?」
衝撃。
バランスが崩れる。
アレンは二人を引き寄せた。
ドサッ。
三人で倒れる。
密着。
完全にゼロ距離。
「……」
「……」
「……」
だが。
今度は誰も何も言わない。
ただ。
状況を理解していた。
「……これ」
リリアが低く言う。
「ヤバいやつですね」
「うん」
アレンは頷く。
「本当にヤバい」
エルミナも静かに言った。
「……世界規模です」
沈黙。
そして。
アレンは立ち上がった。
「止めるぞ」
「全部」
リリアが笑う。
「任せました」
エルミナも頷く。
「信じています」
そして三人は。
侵食の核心へと踏み込む。
その先にあるのは――
まだ誰も知らない“真実”。
⸻
――第18話 完




