第17話 「王都」
王都の城壁が見えた。
高い。
圧倒的な高さ。
石で築かれた巨大な壁は、ただの防衛施設ではない。
「……でかいな」
アレンは思わず呟いた。
「初めてですか?」
エルミナが横から聞く。
「遠目には見たことあるけど、ここまで近いのは初めて」
「普通はそうですよ」
リリアが腕を組む。
「庶民はあまり来る場所じゃないですし」
「言い方」
その瞬間。
ぐいっ。
また腕を絡められる。
「……」
「……」
「やめろって」
「もう諦めてください」
「諦めるな」
そのやり取りを見て、エルミナが少しだけ笑う。
そして。
控えめに、反対側へ寄る。
「……」
「……」
「増やすな」
「自然な流れです」
「違う」
だが。
門が近づくにつれて、空気が変わった。
重い。
圧迫感。
「……これ」
アレンの視界が反応する。
⸻
【王都結界】
規模:特大
構造:多層防御+認識制御
状態:不安定
⸻
「やっぱりか」
「何が見えた?」
リリアが聞く。
「結界」
「しかもかなり大きい」
「やっぱり……」
エルミナが小さく呟いた。
「王都全体を覆っているんですね」
「しかも」
アレンは続ける。
「ちょっと歪んでる」
「歪み?」
「外から干渉受けてる」
その言葉に、レイヴンが反応した。
「……確定か」
「知ってたのか?」
「疑いの段階だ」
だが。
今、確信に変わった。
⸻
門を通る。
検問。
だが。
レイヴンがいることで一瞬で通過した。
中に入った瞬間――
「……」
アレンは足を止めた。
違和感。
強い。
人の気配。
建物。
すべてが普通に見える。
だが。
奥が歪んでいる。
「どうしました?」
エルミナが覗き込む。
距離が近い。
だが今はそれどころじゃない。
「この街」
「何かがおかしい」
リリアが周囲を見る。
「普通に見えますけど」
「表面はな」
アレンは目を細めた。
鑑定を深くする。
すると。
見えた。
⸻
【王都】
状態:部分的侵食
原因:未知エネルギー
進行:緩やか
⸻
「……侵食されてる」
「え?」
「この街」
「じわじわ壊されてる」
沈黙。
エルミナの顔が強張る。
「そんな……」
レイヴンが低く言った。
「……報告以上だな」
「これ放置したらまずいぞ」
「だから呼んだ」
アレンはため息をついた。
「なるほどな」
「完全に事件だ」
その時。
「おい!」
声が響いた。
振り向くと、鎧の男たち。
騎士団だ。
「レイヴン殿!」
「戻られたか!」
「報告は後だ」
レイヴンが短く言う。
「まずは彼だ」
アレンを示す。
騎士たちの視線が集まる。
「……こいつが?」
「鑑定士?」
「ただの冒険者にしか見えんが」
リリアがピクッと反応する。
「ただの、ですか」
「何か問題でも?」
空気が少し張り詰める。
アレンは軽く手を上げた。
「いいよ」
そして。
騎士の一人を見る。
鑑定。
⸻
【騎士】
状態:魔力循環異常(初期)
原因:外部影響
⸻
「……あんた」
「え?」
「もう侵食され始めてる」
「は?」
騎士が顔をしかめる。
「何言ってる」
「右腕、違和感あるだろ」
「……!」
動きが止まる。
「それ、悪化するぞ」
「放置したら戦えなくなる」
周囲がざわついた。
「本当か?」
「……確かに」
騎士が低く呟く。
「最近、違和感はあった」
空気が変わる。
疑いから――
警戒へ。
そして。
期待へ。
レイヴンが言った。
「分かっただろ」
「彼が必要な理由が」
騎士たちが黙る。
アレンは肩をすくめた。
「まぁそんな感じ」
その時。
ぐいっ。
リリアが腕を引く。
「さすがです」
「またそれ」
「誇らしいので」
そして。
エルミナも静かに寄る。
「……本当に」
「あなたは特別ですね」
「普通がよかった」
「無理ですね」
二人同時に言う。
息が合いすぎている。
アレンは苦笑した。
だが。
分かっている。
ここから先は――
今までとは違う。
街レベルじゃない。
国家規模。
そして。
もっと深い“何か”。
「案内しろ」
アレンは言った。
「原因、見に行く」
レイヴンが頷く。
「来い」
そして。
三人は王都の奥へ進む。
その先にあるのは――
この世界の歪み。
そして。
“真価”の核心だった。
⸻
――第17話 完




