第115話 「二人分の価値」
王都上空。
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総司令体が、退いた。
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城塞ほどの巨大頭部。
無数の眼。
黒い主砲。
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その存在が初めて。
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恐怖という反応を示した。
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【危険度再演算】
【観測者二体共鳴確認】
【撤退推奨】
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「逃がすか」
レインが低く言う。
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「同感」
ミラが笑う。
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二人の周囲に、黒と金の光が渦を巻く。
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共有観測核。
共鳴率はなお上昇していた。
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【138%】
【151%】
【173%】
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「数字おかしくない?」
ミラが眉をひそめる。
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「いつもだ」
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「慣れたくないわね」
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地上では連合軍が空を見上げていた。
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「……何が起きてる」
砂漠将軍が呟く。
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「愛の力でしょうか」
海洋女王。
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「違ぇだろ」
グラム。
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「でも否定材料薄いですね」
ノア。
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リリアが叫ぶ。
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「今そこじゃないでしょ!!」
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空。
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総司令体の口が開く。
主砲再充填。
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【都市殲滅主砲 再起動】
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ミラが舌打ちする。
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「しぶとい!」
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「なら終わらせる」
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レインは目を閉じた。
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見える。
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総司令体の構造。
核。
制御線。
再生回路。
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そして。
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ミラの視界も同時に流れ込む。
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彼女の解析。
彼女の直感。
彼女の戦闘感覚。
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「……なるほど」
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「何が?」
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「お前、思ったより優秀だ」
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「今それ言う!?」
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レインが笑う。
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「最後だからな」
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二人の手が自然に重なる。
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誰も指示していない。
誰も教えていない。
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ただ、そうするのが最適だと分かった。
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【連携定義形成】
【名称未設定】
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「名前つける?」
ミラ。
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「いらねぇ」
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「センスない男」
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二人同時に総司令体へ手を向ける。
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「これは――」
レイン。
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「もう終わった戦争」
ミラ。
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世界が止まる。
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総司令体の無数の眼が見開かれる。
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【定義衝突】
【存在意義喪失】
【主砲停止】
【自壊開始】
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巨大頭部に、亀裂が走る。
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一つ。
二つ。
百。
千。
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内部の黒い光が漏れ出し。
次の瞬間。
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総司令体そのものが崩壊した。
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黒い破片となって空へ散る。
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王都全域に歓声が響く。
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「勝ったぁぁ!!」
「総司令だ!」
「英雄だ!」
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グラムが大剣を掲げる。
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「宴だぁぁ!!」
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「早い!」
リリア。
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ミラは息を吐き、笑った。
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「……悪くないわね」
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「だろ」
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共有感覚越しに伝わる。
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達成感。
安心。
互いへの信頼。
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そして少しの照れ。
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「今、変なの流したでしょ」
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「知らん」
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「絶対嘘」
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その時だった。
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空が暗くなった。
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昼だったはずの王都に、夜のような影が落ちる。
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歓声が止む。
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全員が見上げる。
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雲の上。
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さらにその上。
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空そのものを押し広げるように。
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巨大な黒い影が降りてくる。
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円環ではない。
棺でもない。
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大陸ほどの“船”。
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表面に無数の都市遺跡を貼りつけた、移動要塞。
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その中心で、一つの白い瞳が開く。
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【先遣隊損耗確認】
【本隊旗艦 起動】
【文明回収作業を開始する】
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誰も声を出せなかった。
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「……は?」
リリアがようやく漏らす。
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エルミナの手から杖が落ちる。
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「規模が……違いすぎる」
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ミラの顔色が変わる。
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「冗談でしょ」
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レインだけが、静かだった。
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その瞳に映るのは。
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恐怖ではない。
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闘志だった。
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「……ようやく本番か」
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――第115話 完




